深刻化する詐欺被害を防ごうと、大阪府は8月1日、ATMでの携帯電話の使用制限などを盛り込んだ改正条例を施行する。今年に入り、特殊詐欺とSNS型投資・ロマンス詐欺を合わせ、全国で1日平均約4億5000万円の被害が発生。詐欺被害の「出口」ともいえるATMでの対策強化に大阪が全国に先駆けて乗り出す。金融機関などにも防止措置を課すが、違反しても罰則はなく、実効性が問われそうだ。
改正されたのは「大阪府安全なまちづくり条例」。65歳以上の高齢者を対象にATMの操作時に携帯電話での通話を禁じ、金融機関にもポスターなどによる周知を義務付けた。10月1日からは、過去3年間にATMでの振り込み履歴がない70歳以上に対し、振り込み上限額を1日原則10万円以下に制限することも義務化される。
詐欺被害の防止は喫緊の治安課題だ。警察庁によると、全国で昨年認知した特殊詐欺とSNS型投資・ロマンス詐欺は計約3万1000件で、被害額は約2000億円と過去最悪を記録した。今年は昨年を上回るペースで、1〜5月の認知件数(暫定値)は約1万3000件と前年同期比で約25%増加。被害額は2倍超の約680億円にのぼる。単純な日割では1日平均約4億5000万円の被害で、特殊詐欺の2人に1人は高齢者が被害に遭っている。
詐欺グループはさまざまな手口を用いるが、大阪府内では「還付金詐欺」の認知件数が2022年から3年連続で全国ワーストだ。自治体職員をかたって医療費の還付金が得られるなどと偽ってATMに誘導した上、操作に不慣れな高齢者らに電話で指示を出し、現金を振り込ませる。改正条例では被害の「出口」となるATMでの入金を封じることを目指す。
大阪府警はこれまで、特殊詐欺の入り口となる固定電話に自動録音機能や不審電話の着信拒否機能を備えるよう推奨。各自治体でも、こうした機能がある固定電話の購入に補助金を出してきた。ただ、府警幹部は「手口は巧妙化している。入り口だけでなく、水際対策も重要だ」と話す。
さらに、改正条例ではATMを管理する金融機関にも努力義務として、最新の防犯機器の設置も盛り込んだ。一部の金融機関は施行を前にすでに動き出している。
ゆうちょ銀行では23年、通話しながらATMを操作すると警告音がなるAI付き小型カメラの実証実験を実施。検知率が85%まで向上し、昨年から全国のATMに設置を始めた。大阪東部農業協同組合(JA大阪東部)でも条例改正に先駆け、府警と大阪電気通信大が共同開発したAI付き小型カメラを7月23日からATMに設置し、被害の未然防止に取り組む。
今回の条例改正は、ATM対策に主眼が置かれているが、罰則もなく効果は見通せない。また、高額被害が目立つインターネットバンキングは、自宅で操作できて上限額の引き上げも自ら可能だが、対策の「抜け穴」となっている。警察当局はネットバンク開設などを持ちかける不審電話への注意も呼びかけている。
SNSで被害者と接触し、投資や結婚資金名目で金銭を要求する手口。時間をかけてコミュニケーションを重ね、信頼関係を構築してから金銭を要求するのが特徴となっている。SNSの普及とともに近年急増し、昨年の被害総額は約1271億9000万円で、オレオレ詐欺といった特殊詐欺の被害総額(約718億8000万円)を大幅に上回った。
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