このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
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スコットランドのグラスゴー大学とScottish SPCAなどに所属する研究者らが2017年に発表した論文「‘The effect of different genres of music on the stress levels of kennelled dogs’」は、音楽が犬のストレス軽減に与える影響について調査した研究報告だ。
犬舎に収容された犬のストレスは、動物福祉における重要な課題だ。そこで、動物保護施設の38頭の犬を対象に、ソフトロック、モータウン、ポップ、レゲエ、クラシックという5つの異なるジャンルの音楽を5日間聞かせてストレスレベルを観察した。音楽は毎日午前10時から午後4時まで再生され、各ジャンルの前後には無音期間を設けた。
測定項目は行動観察、心拍変動(HRV)、尿中コルチゾール・クレアチニン比(UCCR)の3つ。行動観察では、横になる、座る、立つ、歩く、吠えるなどの行動を10分間隔で記録。HRVは特殊な心拍モニターを装着して連続的に測定し、自律神経系の活動を分析し、UCCRは朝の尿サンプルから測定してストレスホルモンのレベルを評価した。
行動面での結果として、音楽再生中は犬が横になっている時間が有意に増加し、立っている時間が有意に減少した。この傾向は音楽のジャンルに関わらず観察できた。吠える行動については音楽再生中に特定の変化は見られなかったが、音楽を停止した後に吠える頻度が有意に増加。これは犬が音楽による環境の改善を認識し、その停止に反応したことを示唆している。
HRVの分析結果では、ソフトロックとレゲエを聞かせた際にHRVが最も高い値を示し、副交感神経系の活動が活発になっていることを確認。これはストレスレベルの低下を意味する。モータウン、ポップ、クラシックでも効果は見られたが、その程度は比較的小さかった。
さらに、以前の研究ではクラシック音楽を7日間繰り返し聞かせると、初日に見られた効果が徐々に減少する慣れの現象を観察していた。しかし今回の研究では、毎日異なるジャンルを聞かせることで、5日間を通じて効果が維持されることを確認。これは音楽の多様性が慣れを防ぐ可能性を示唆している。
年齢による反応の違いも観察され、8歳以上の高齢犬では若い犬と比較してHRVの改善が少なかった。これは高齢犬が静かな環境を好むか、聴力の低下により音楽刺激への反応が弱い可能性を示している。
Source and Image Credits: Bowman A; Scottish SPCA; Dowell FJ, Evans NP. ‘The effect of different genres of music on the stress levels of kennelled dogs’. Physiol Behav. 2017 Mar 15;171:207-215. doi: 10.1016/j.physbeh.2017.01.024. Epub 2017 Jan 14. PMID: 28093218.
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