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急拡大するロシアのサイバー犯罪組織 詐欺・ネット攻撃ツールの「デパート」、日本も脅威

» 2025年08月25日 13時28分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 ロシア語圏のサイバー犯罪コミュニティーが急速に拡大し、日本を含む世界各国の脅威となっている──セキュリティーソフト大手のトレンドマイクロは7月、このようなリポートを公表して日本社会に警鐘を鳴らした。秘密裏に開設され、特殊なソフトウェアを通じてアクセスできる彼らのサイトでは多くの犯罪サービスが提供され、“誰でも簡単に犯罪に加担できる”環境が生まれている。そのような状況は、ロシアと政治的に対立する日本にとってより深刻な影響を与えることになる。

中国語圏からも利用者が参加

 「日本のWebサイトを攻撃したい。誰かサービスを提供してもらえないか」

 ロシア語圏の犯罪コミュニティーサイト「RUTOR」に書き込まれた一文だ。その文章は中国語で書かれており、トレンドマイクロの岡本勝之セキュリティエバンジェリストは「影響力が高まるロシア語圏のコミュニティーに、中国語圏の利用者が参加している実態を示している」と断じる。

 掲示板のように書き込みができるこれらのサイトは、多様なサービスを提供している。

 例えば詐欺。岡本氏によると、企業などの公式サイトになりすまし、クレジットカード情報などを記入させるフィッシング詐欺では、メールなどの送り先のデータベースとサイト構築のための「キット」が販売されている。ロマンス詐欺では、異性のような声を生成できるソフトが売られており、詐欺目的の偽のメッセージを大量に送るためのショートメッセージ配信サービスもある。

 ウイルスに感染したPCやスマートフォンを遠隔で操作するボットネットや、生成AIを使って偽の画像・音声を作るディープフェイク、攻撃の発信源をわからなくするソフトなど、あたかも「犯罪サービスのデパート」状態だ。さらに効率的に詐欺行為を行うためのオンラインレッスンや、犯罪者を精神的にサポートするための相談サービスまであるという。

政治体制と密接に関係

 ロシア語圏でサイバー犯罪サービスが普及したのには旧ソ連の歴史や政治体制が密接に絡んでいる。

 まず1991年のソ連崩壊と、その後の経済混乱だ。旧ソ連諸国の多くは極度の貧困に陥り、高学歴の優秀な若者らの多くが職探しに苦しんだ。「その結果、目を付けたのがサイバー犯罪だった」(岡本氏)。

 2000年に誕生したロシアのプーチン政権もサイバー犯罪者の増大に関連がある。多くの場合、国境を越えて行われるサイバー犯罪だが、外国に犯人がいた場合、多くの国はその犯人の引き渡しを求める。しかし、プーチン政権は自国内の犯罪者を他国に引き渡すような行為には否定的とされ、その結果、ロシア国内を拠点にするサイバー犯罪集団が数多く現れた。

 自らのツールやサービスが、「ホスト国」であるロシアに被害を及ぼさないようサイバー犯罪コミュニティーは通常、「ロシア国内は攻撃対象とはしない」とのルールを設けている。

 さらに22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、そのような傾向をさらに強める結果を生んだ。侵攻が開始される直前に、ロシア政府は突如、ネットワーク上の資料を暗号化して身代金を要求するランサムウェア攻撃を手がけていた犯罪者集団の摘発を行った。

 なぜロシア当局がそのような行為に踏み切ったかは不明だが、ウクライナ侵攻が開始されると他の組織は相次ぎ「私たちはロシアを支持する」と、よりロシア寄りの姿勢を鮮明に示すようになった。

自社サイトの脆弱性確認を

 懸念されるのは、このようにロシア語圏のサイバー犯罪コミュニティーが拡大するなか、ほかの言語の犯罪者らもロシア語圏のサイトで活発に活動するようになるなど求心力が増している点だ。

 言語の面では、自動翻訳機能などの精度向上で「十分にコミュニケーションが取れる」という。そのような人気の高まりも、さらなるサイトの拡充を後押ししているといえる。

 このような状況は、ロシアと緊密な関係にある中国、北朝鮮と政治的に対立する日本にとっては一層大きな懸念材料となる。

 仮に犯罪者自身が政治的な意図を持っていなくても、各国政府の関与が疑われるサイバー攻撃は多数あり、政治的な理由で日本を対象に攻撃を行いたい組織が、犯罪コミュニティーが提供するサービスをより活用できる環境が生まれるからだ。

 岡本氏は「企業や組織、個人は攻撃を受ける危険性を避けるために、より能動的に自社のWebサイトやオンラインサービスをチェックし、脆弱(ぜいじゃく)性がないかを入念に確認する取り組みが必要だ」と強調する。(黒川信雄)

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