ウイングアークが8月26日に発表した、Trusteeの文書処理速度の数字は「秒間1000文書」。従来の「30秒に1回」から見れば3万倍、「1秒に1回」と比べても1000倍の高速化だ。島澤氏はこのサービスについて「電帳法のために設計したわけではない」と強調。単なる法対応にとどまらず、生成AI時代のユーザーニーズの変化にあわせた役割を担わせる考えを示した。
これを現実のものとする、技術革新の詳細を見てみよう。Trusteeの高速化は、3つの技術によって実現したという。第一に、独自開発のPDF解析エンジン。オープンソースのライブラリと比較して、約100倍の処理速度を実現した。第二に、クラウド上での並列処理アーキテクチャ。既存サービスの1万倍という高速化を達成した。第三に、東西2つのデータセンターを活用した冗長化構成。これにより、メンテナンス時やうるう秒対応時でも「止まらない」サービスを整えた。
1000文書/秒の処理速度なら、月100万枚を超える請求書も17分で処理できる。1スタンプ当たり5円以下という価格も、他社の7〜10円と比べて半額近い設定だ。発行時点でのタイムスタンプ付与が、ようやく現実的になる。
ウイングアークが狙うターゲット業界は明確だ。電帳法対応はもちろん、金融業界では保険証券や金融関係文書、製造業では品質証明書でも改ざん防止ニーズが高い。崎本氏は現状1〜2割にとどまるタイムスタンプの発行時実施率を「8割まで引き上げたい」と語る。技術的な基盤はすでに整った。今後の課題は、「電帳法=タイムスタンプ」という認識や「タイムスタンプは受領時でよい」という慣習をどう変えていくかだ。
さらに同社は、より広い市場を見据えている。「ECサイトからダウンロードできる領収書にも、デフォルトでタイムスタンプが押される世界にすべき」(島澤氏)。ECサイトの領収書やタクシーのレシートといった日常のあらゆる文書も、デジタル化が進む中、改ざんリスクにさらされているからだ。
企業が「電話確認」に頼っている間に、攻撃者の技術は急速に進化する。このギャップが限界点に達するのは、時間の問題だ。生成AI技術の急速な進化が、日本企業のデジタル文書管理の在り方を改めて問いかけている。
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