米保守活動家のチャーリー・カーク氏が射殺された事件は全米を震撼させた。SNSにはカーク氏が銃撃された瞬間の映像が、望まないユーザーのニュースフィードにまで表示され、ネットは今も右派と左派の両方があおり立てる事実無根の陰謀論であふれ返っている。
カーク氏は9月10日(現地時間)、米ユタ州の大学で演説中に射殺された。会場には多数の学生が詰めかけて、演説の様子をスマートフォンで撮影していた。カーク氏が撃たれた瞬間を撮影した学生らは、すぐに動画をTikTokやInstagram、YouTube、Xなどにアップした。
動画はまたたく間に拡散され、ユーザーが検索しなくてもSNSのフィードに勝手に表示される現象が続出した。動画が自動再生され、見たくもないのに生々しい銃撃の瞬間を見てしまったユーザーも少なくないと思われる。
同時に、殺害を巡る陰謀論が次々に投稿された。
「チャーリー・カークは9月10日、ユタバレー大学で暗殺された。しかし『チャーリー・カーク射殺事件:ユタバレー大学襲撃事件の記録』という書籍が9月9日にAmazonで販売されていた。一体なぜ、暗殺が起きる前に、チャーリー・カーク銃撃の本がAmazonで発売されたのか」
そんな投稿が表紙の画像付きでXに掲載され、陰謀論をあおり立てたのは事件翌日の11日。AFP通信によれば、この書籍はAIを使ったでっち上げで、射殺される前に出版されたように見せかけたにすぎないと専門家は指摘している。
死亡したカーク氏はトランプ大統領を支持するMAGA運動の指導者として保守系の若者に絶大な人気があった。トランプ大統領自らも、事件が起きた当日、まだ容疑者さえ特定されない段階で、「過激な左派の政治的暴力」と言い切った。
一方で、「カーク氏の遺体は救急車で病院に搬送されたのではなく、トランプ大統領とバンス副大統領が保持している」説もXで急拡散した。「カーク氏の演説中に不審なドローンが飛行していた」「事件後に周辺のカメラが撤去された」などのもっともらしいうわさも飛び交い、「ジェフリー・エプスタイン(トランプ氏と親交のあった富豪。少女買春などの罪で起訴され自殺)疑惑から注目をそらす目的で、トランプ大統領がカーク氏殺害を企てた」説も注目を集めた。
陰謀論は米国内にとどまらない。「イスラエルのスパイに暗殺された」説には敵対するイランのメディアが飛びつき、ロシア国営メディアは「ウクライナが関与した」説を展開。中国は米国の分断を印象付ける狙いで「ロビンソン容疑者がトランプ陣営に寄付していた」などの偽情報を流しているという。
いずれの説も、根拠や証拠は何もない。
その後、カーク氏殺害の容疑で9月11日に逮捕されたタイラー・ロビンソン容疑者は、カーク氏について「あまりに多くの憎悪を拡散させている」と語ったとされる。今回の事件に背後関係はなく、ロビンソン容疑者単独の犯行だったと捜査当局は見ている。
それでも極右のインフルエンサーは、民主党の関与説やファシズム反対運動の「アンティファ」関与説をまき散らし、トランプ大統領はアンティファをテロ組織に指定すると発表した。
なぜこれほどまでに陰謀論は増殖し続けるのか。過激な内容でアクセスを稼いで収益を得ようとするインフルエンサーやYouTuberは数多い。陰謀論に詳しい作家のマイク・ロスチャイルド氏はそうした投稿について、「つじつまは合わないが、つじつまを合わせる必要はない。そうした人たちは論議を巻き起こすことに必死だ。グッズを売ってサブスクリプションを確立し、ユーザーをつなぎとめるためにはこうした不穏な説を打ち出す必要がある」とCNNに解説している。
トランプ大統領「イーロンは正気じゃなくなった」 マスク氏「彼はエプスタインリストに入っている」
X、共和党ヴァンス議員の文書を流出させたジャーナリストのアカウントを凍結
イーロン・マスク氏、ハリス副大統領のディープフェイクパロディ動画をXにポスト
偽ニュースを拡散する“スーパーシェアラー”は誰? 米大統領選挙時の投稿を調査 浮かび上がった人物像は
人はなぜワクチン反対派になるのか──東大などがツイート分析 「陰謀論などに傾倒する人がなりやすい」Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR