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なぜ今、鉄道各社は「顔パス改札」を競うのか 東武・日立が「SAKULaLa」で描く“第3の道”(4/4 ページ)

» 2025年11月14日 14時51分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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プライバシーへの懸念、どう対応?

 一方で、顔認証改札の普及には、いくつもの壁が立ちはだかる。最も大きいのがプライバシーへの懸念だ。

 日本弁護士連合会は21年11月、鉄道事業者による顔認証システムの利用中止を求める会長声明を出した。指摘したのは「監視社会化」のリスクだ。駅という公共性の高い空間での利用は、他の交通手段を選ぶのが難しい利用者にとって「事実上の強制」になる。システムが24時間組織的に稼働すれば、鉄道事業者が警察の捜査体制に組み込まれることにもなりかねない。

 この懸念に対し、事業者側は技術的な防御策を用意する。大阪メトロは「顔認証用カメラは常時稼働しているが、録画はしていない」と明記した。改札通過時に取った顔画像は、認証用のデータに変換され、照合の後「即時削除」されることで、データがサーバに残らない仕組みだ。「法令等に特段の定めがある場合を除き第三者への提供はしない」とも定め、捜査機関への安易なデータ提供を防ぐ。

 SAKULaLaも同様の設計を採る。日立のPBI技術では、生体情報そのものは保管せず、暗号化した公開鍵だけを管理する。「万が一の情報漏えいがあっても、生体情報そのものは保管していないため影響はない」と日立の石田事業執行役員は説明する。事業者側の主張は、これは「監視」ではなく、利用者が同意した「認証」サービスだというものだ。

 ただし、技術的な対策だけで社会の受け入れが進むかは不透明だ。大阪メトロの顔認証改札が万博会場で「かなり空いていた」という事実は、認知度の低さと事前登録の手間という心理的なハードルの高さを示している。技術の導入と利用者への浸透は、全く別の課題だ。

 26年春には、大阪メトロでの利用率が明らかになり、東武のカメラ内蔵改札機が稼働を開始する。そこで見えてくるユーザーの反応が、日本における顔認証の未来を占うことになるだろう。

photo 発表会にはJCB、東武鉄道、日立製作所の3社が参加した
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