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揺れる損保調査業界 元エース調査員の放火、サイバー攻撃……それでも働かぬ自浄作用の背景

» 2025年12月15日 19時12分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 損害保険金を支払うべきか否かを調べる保険調査の業界が揺れている。最大手「損害保険リサーチ」の元調査員が在職時から複数の保険金詐欺に関与していた疑いが警察の捜査で浮上。さらに12月に入り、競合他社がサイバー攻撃を受け、新規受注を停止していることも明らかに。業界全体の信用が問われる事態となっている。

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 元調査員は深町優将(まさのぶ)被告(54)。別の男らと共謀し、各地で古民家や空きビルへの放火と保険金請求を繰り返したとして逮捕、起訴された。

 損保リサーチ関係者によると、被告は特に火災保険の調査に精通し、その分野の「エース」と呼ぶ人もいた。ある現役調査員は「在籍時には、被告に優先的に依頼を回している幹部もいた」と証言。組織としてのチェック態勢にも疑問が生じるが、同社は4月に最初の事件が発覚して以降、一般向けの説明を一切行っていない。

 一方、顧客である大手損保は事件前と同様、損保リサーチへの発注を続けている。複数の大手損保の担当者は「被告個人の犯罪であり、組織の関与はない」ことを理由に挙げた。

 損保リサーチは大手損保各社の共同出資で設立された。東京商工リサーチによれば、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、損害保険ジャパン−の3社が株式の10%、あいおいニッセイ同和損害保険が4.5%を保有。損保リサーチの社長は、10%保有の3社の出身者が持ち回りで就くのが慣例だという。

 ある損保リサーチOBは「身内同士の閉鎖的な経営体制で、対外的に説明する習慣がないことも対応に影響している」と述べ、”自浄作用”が働きにくい構造的な要因があると指摘する。

 一方、損保リサーチと競合する審調社は12月5日、「ランサムウェア」を使ったサイバー攻撃を受け、少なくとも約10万件の顧客情報が流出したと公表。被害に遭ったのは6月で、それから現在に至るまで新規調査の受注をほぼ停止している状態という。

 損保リサーチの調査員は「9月以降、仕事量が明らかに増えた。幹部が『みなさん、件数を抱えているかもしれませんが、お願いします』と言うくらい」とし、現場では「審調社特需」が起きていると明かした。

 そもそも全国規模で展開している保険調査会社は少なく、ある外資系保険会社の社員は「審調社に仕事がいかなければ損保リサーチの受注件数が増えるのは必然」と述べ、元調査員の事件が業績に影響するどころか、”敵失”のおかげでむしろ勢いを増しているのでは、と推測した。

 これまで全国の警察が立件した深町被告に関する事件は4件で、うち2件は損保リサーチ在籍時のもの。保険金の不正請求額も1億円超に上るが、同社はいまだホームページ上におわびすら掲載していない。先のOBは保険調査員が保険金不正に関わった点を重視。「調査を業とする会社が『個人の犯罪』と矮小(わいしょう)化していい事件なのか」と疑問を呈した。(倉持亮)

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