アスリートたちを傷つける行為が後を絶たない。誹謗(ひぼう)中傷、盗撮、パワーハラスメント……。理想的な競技環境の創出は喫緊の課題だ。リスペクト(尊敬)をアクション(行動)へと変えることが第一歩となる。その一歩を踏み出してみよう。
盗撮された写真を初めて目にしたのは、高校生のころだった。
「当時は、(公式の)大会カメラマンを見ても不適切な写真を撮られていないか気になった。幼かったので100%演技に集中できなかった」
体操女子のオリンピアン、杉原愛子(26)はこう振り返る。
胸元や開脚した際の下半身を隠し撮りした写真がSNSに出回った。ダイレクトメールで送り付けられることもある。それは、アスリートが重ねた努力の結晶を踏みにじる行為だ。
盗撮や盗撮画像の提供・保管は、2023年7月に新設された性的姿態等撮影罪によって処分の対象となった。実刑になる可能性もあるなど厳正な処分が下される。
だが、競技中の盗撮に関しては事情が異なる。性犯罪被害者の支援に取り組む弁護士の上谷(かみたに)さくらによると、下着などとは異なり選手自ら着用しているユニホームは、処罰の対象となる「性的姿態等」に該当しない。
上谷は「どこからが性的な目的なのかという線引きも難しく、法律化するのが難しい。社会の意識から変えていく必要がある」と話す。
迷惑防止条例などによって、自治体がその線引きを独自に明確化しようとする試みもある。例えば、福岡県が24年3月に改正した条例では、アスリートに対する盗撮行為を着衣の有無にかかわらず「性暴力」と定義。条例に基づいた対応指針では、大会では事前に撮影許可証の発行や写真の確認手続きなどを求めている。
同様の条例は三重県でも成立。東京都や大阪府などでは、「衣服で覆われている下着や身体」の盗撮も対象と明記することでユニホーム姿にも対応した。
ただ、こうした条例には罰則が設けられていないところも多く、その実効性は未知数だ。上谷は「アスリート盗撮が減少しないのであれば、罰則導入を検討する必要がある」と語る。
いまは観戦者側の倫理観に期待するしかなく、選手たちが自衛するほかないのが実情だ。
杉原はレオタードに代わるユニホームとして、太ももの上部までを生地で覆った「アイタード」を考案。自らも着用し、大会での普及を目指す。大手メーカーのミズノは赤外線カメラによる盗撮を防ぐ「透けないユニホーム」を開発し、24年のパリ五輪ではバレーボールや卓球などの競技で採用された。
日本オリンピック委員会(JOC)は全国高等学校体育連盟などの関連団体と連携し、被害撲滅に取り組む。専用ページに報告フォームを設置し、性的目的のSNS投稿やWeb掲載を見かけたら情報提供するよう呼びかけている。
しかし、そうした取り組みを嘲笑するかのように、アスリートの性被害リスクは高まる一方だ。
生成AIの発達により、盗撮された画像がさらに性的に加工され拡散されるなど被害は深刻化している。
被害を減らすためには、より実態に即した法整備が必要だ。と同時に、観戦者のモラルを高める努力は欠くことはできない。たとえ、どれほど時間がかかろうとも。
中京大大学院教授の來田(らいた)享子(スポーツ・ジェンダー学)は「誰もが加害者になる可能性があることを踏まえた啓発活動、法律家や警察などとの連携を強化する必要がある」と語った。=敬称略(長谷川毬子)
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