2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学などに所属する研究者らが発表した論文「Game on or gone too far? Executive functioning and implicit sequence learning in problematic vs. recreational gamers」は、依存的にゲームをする人と楽しんでプレイしている人とでは、認知能力にどのような違いがあるのかを調査した研究報告だ。
ビデオゲームは長らく「脳に悪い」「時間の無駄だ」と言われてきた。しかし、その悪影響として語られてきたものの多くは、ゲームそのものではなくゲーム障害、すなわち自分で制御できなくなった依存的な状態に起因する可能性が高い。
そこで研究チームは、一括りにゲーマーと言っても、依存的にやっている人と趣味で楽しんでいる人とでは、認知能力にどのような変化があるのかを調査した。
研究では、成人114人を3つのグループに分けた。
なお、週0時間より多く14時間未満しか遊ばないゲーマーは除外している。
分類やレクリエーションゲーマー群とゲーム障害リスク群の判定は、「IGDT-10」というスクリーニング尺度のスコアに基づく。IGDT-10は、10項目の自己報告式の質問紙により、DSM-5(米国精神医学会の診断基準)が定めるゲーム障害の診断基準に対応したものだ。質問内容を以下の通り。
これらの質問に対して、どのくらいの頻度で当てはまったかを 0(全くない)、1(時々ある)、2(頻繁にある)で答えてもらい、「頻繁にある」と答えた場合のみ基準を満たすとカウントされ、5つ以上を満たすとゲーム障害リスクありと判定した。
なお、質問9と質問10はDSM-5の同一の診断基準に対応するため、どちらか一方または両方に「頻繁にある」と答えた場合にのみ合計1点が加算される。両方に該当しても2点にはならない。
実験では、各群に対して、情報を一時的に頭に保持して処理する「ワーキングメモリ」、衝動を抑える「抑制コントロール」、臨機応変に思考を切り替える「認知的柔軟性」といった実行機能と、無意識のうちにパターンの規則性や手順を覚える「潜在的系列学習」の能力を測定するため、Go/No-Go課題、数唱課題(Digit Span)、カウンティングスパン課題、N-back課題など、複数の神経心理学的なテストを実施した。
テストの結果、ゲーム障害リスク群はワーキングメモリの容量が低下していることが明らかになった。具体的には、数唱課題ではゲーム障害リスク群が非ゲーマー群より有意に低下し、カウンティングスパン課題では非ゲーマー群とレクリエーションゲーマー群の両方より有意に低下していた。
さらに、比較的シンプルな記憶課題(1-back課題)において誤ったタイミングでつい反応してしまうミス(お手つき)の数が多く、より衝動的な反応スタイルを持っていることが示された。
一方で、レクリエーションゲーマー群は、非ゲーマー群に比べて標的刺激を見逃さず的確に反応できており、注意制御能力の高さがうかがえる結果となった。
なお、無意識のうちにパターンの規則性を覚える「潜在的系列学習」の能力自体には、3つのグループ間で明確な差は見られなかった。これは、ゲーム障害になると無意識の習慣的処理に偏るという従来の予想に反する結果で、依存的なゲーミングの背景は単純な習慣化だけでは説明できないことを示唆している。
これらの結果は、認知機能の低下がゲームのプレイ時間そのものによって引き起こされるわけではなく、行動の制御ができなくなるゲーム障害という状態に特有のものであることを示している。娯楽としての適度なプレイは、認知的な問題を引き起こさないだけでなく、注意力を高めるなどの恩恵をもたらす可能性がある。
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