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注射1回で「脳内のごみ」大掃除に成功 米大学がアルツハイマー病の新治療をScienceで発表 マウスで実証Innovative Tech

» 2026年04月06日 08時00分 公開

Innovative Tech:

2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2

 米ワシントン大学などに所属する研究者らがScienceで発表した論文「Targeting amyloid-β pathology by chimeric antigen receptor astrocyte (CAR-A) therapy」は、一度の投薬で脳の細胞を改造して、アルツハイマー病の原因となるごみを掃除させる新しい治療法を提案した研究報告だ。

photo 注射器と脳のイラスト(絵:おね

 アルツハイマー病は、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれる異常なタンパク質が脳内に蓄積し、神経細胞がダメージを受けることで進行する認知症の主な原因だ。現在、このAβを取り除くための抗体医薬が承認されているが、高用量で何度も投与しなければならない点や、副作用のリスクなど、解決すべき課題が多く残されている。

 こうした中、1回の投薬治療で脳内の細胞自身に持続的なAβ除去を行わせる新たな治療戦略「CARアストロサイト」(CAR-A)療法が開発された。この技術は、近年がん治療で効果を上げている「CAR」(キメラ抗原受容体)の仕組みを、脳の病気に応用したものだ。

 脳の免疫を担う「ミクログリア」にCARを導入して脳全体に行き渡らせることは技術的に難しい。そこで研究チームは脳の環境を整えるサポート役である「アストロサイト」という別の細胞に着目した。

 研究では、CARを載せたウイルスベクター(いわゆる運び屋)を血管から注射によって投与することで、脳全体のアストロサイトに対し、Aβを正確に見つけ出して取り込み、分解する機能を組み込んだ。つまりアストロサイトに対し、ウイルスベクターを用いた遺伝子操作でAβを見つけて食べるような改造を施すわけだ。

 実際にアルツハイマー病のモデルマウスを用いた実験ではまず、Aβを標的とする抗体成分と、細胞が物質を食べる働き(貪食)に関わる受容体を組み合わせた4種類のCARを設計。試験を経て、特に効果の高かった2種類でマウスでの実験を行った。

 すでに脳内でAβの塊(プラーク)が形成されてしまったマウスにこのCAR-Aを1回投与したところ、3カ月後にはAβの蓄積が有意に減少し、それに伴う神経のダメージも明確に減少していた。さらに、プラークが形成される前のマウスに投与した場合は、その後2.5カ月間にわたってAβの蓄積そのものを防ぐ予防的な効果も確認された。

photo 投与でCARを組み込んだアストロサイトが脳内のAβプラークを除去する仕組みの概要図

 詳細な解析から、この治療法はアストロサイト単独で機能するだけでなく、脳内の他の細胞にも良い影響を与えていることが明らかになった。アルツハイマー病の進行とともに疲弊する本来の掃除役であるミクログリアが、CARを組み込まれたアストロサイトからの働きかけによってより健康な状態へとシフトし、両者が連携して脳内の環境改善に貢献していることが示された。

Source and Image Credits: Yun Chen et al. ,Targeting amyloid-β pathology by chimeric antigen receptor astrocyte (CAR-A) therapy.Science391,eads3972(2026).DOI:10.1126/science.ads3972

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