41年前に誕生し、日本のPC普及の牽引役にもなったワープロソフト「一太郎」が、現在も毎年バージョンアップを続けている。ビジネス用途では「Microsoft Word」に主流を譲って久しいが、縦書きやルビといった日本語特有の機能では優位に立ち、近年は個人の出版、小説サイト投稿といった作家志望者向けの機能も充実。かな漢字変換の精度も向上を続けている。開発元のジャストシステムが描く、日本語ワープロの「進化」の先とは。
「一太郎は日本語の組み版に忠実に対応しているところが、Wordなどとの差別化のポイント。ルビが行間を広げずに入るといった日本語の伝統的な文書作法に対応している。昔は一太郎vs.Wordと言われたこともあったが、今は過度に意識した開発はしていない」
そう話す同社企画開発グループの佐々木孝治さんは、毎年のバージョンアップについて「40年を超えて完成形に近い商品なので、日本語組み版に対応する新しいネタがあるかというと、そんなに多くはない」と明かす。それでも「お客さまから上がってくる要望に真摯に対応することに加え、音声入力や文字起こしなど時代に合わせた執筆活動もサポートしている。そして最新版の『創る、安心と信頼。』のように毎年テーマを決めている」と、今後のバージョンアップにも意欲を示す。
その「時代に合わせた」機能の一つが、小説執筆の支援だ。「一太郎2017」から複数の小説投稿サイトに応じたルビの出力機能や、小説執筆に集中できる「もの書き」向けの操作環境を用意した。印刷所へのデータ入稿もサポート。最新版では、個人出版できるAmazonのKDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)のペーパーバック対応レイアウトが簡単に行える機能が追加された。
「文学フリマ(文学作品展示即売会)も年々人が増えて全国で開催され、自分の作品を世に出したいという需要が高まっているのを感じる」と佐々木さん。「物書きの方にプロの道具として使っていただいているのとは別に、一般の全ての小説を書かれる方に対して、一太郎は執筆活動をサポートしていきたい」
最新版には、生成AIを活用した文章作成アシスタント「ATOK MiRA」(エイトックミラ)を搭載した。日本語入力機能のATOKは高い変換効率で定評があるが、MiRAは入力した文章についてユーザーが「より丁寧に」「子供に話しかけるようにして」などと自由に指示すると、リライトした文章が提示される。
企画開発グループセクションリーダーの椋本佳範さんは「かな漢字変換では正しい漢字を候補から選択するが、MiRAは文章自体の選択肢をユーザーに持ってもらうのが目的」と話す。他のAIサービスとも競合する機能だが、椋本さんは「自分が本当に伝えたかった内容にユーザーが自ら気づいていただけるよう、AIが表現を広げる新たなライティング体験をお届けしたい」という。
同社は1992年に作家の紀田順一郎を座長にした「ATOK監修委員会」を作るなど、ユーザーが日本語入力で頼っているパソコンの辞書に規範性を持たせる取り組みを古くから行い、一方で方言も取り込んだ「一人一人のATOK」を目指してきた。生成AIがその延長線上で今後どう生かされるのか、注目だ。
一太郎の発売は昭和60年。2年後のバージョン3は使いやすさ、安さなどでベストセラーとなり、PCソフトの代名詞になった。しかし、Windowsの普及とともにWordにシェアを奪われ、現在はWebブラウザ上で動く無料の「Google ドキュメント」など複数ユーザーが文書を共有し作成するグループウェアが浸透している。
一太郎はこの流れとは一線を画し、過去のバージョンとの互換性を保ちながら、印刷物など出力が重視される教育現場や官公庁で利用が続いている。佐々木さんは「一太郎が目指すのは『進化』と『深化』。新しいものを取り入れる一方で、バージョンアップで物書きの方からの要望にも応えるなど、既存の機能も深く利用できるようにしていきたい」と話している。(鵜野光博)
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