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老化を“巻き戻し”──あるタンパク質で老マウスの肝臓が若返り Nature系列誌に掲載Innovative Tech

» 2026年06月08日 07時00分 公開

Innovative Tech:

2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2

 イスラエルのバル=イラン大学やアメリカ国立老化研究所などに所属する研究者らがNature Communicationsで発表した論文「SIRT6 overexpression counteracts chromatin aging in the male murine liver」は、加齢で衰えた肝臓を、ある酵素の働きで若い状態へと巻き戻せることを、オスのマウスで示した研究報告だ。

 細胞内には、生命の設計図であるDNAがタンパク質に巻き付いて折りたたまれた「クロマチン」と呼ばれる構造体が存在している。若いころは、このクロマチンが綺麗に整理整頓され、必要な遺伝子だけが働くように制御されている。

 しかし、加齢とともにこの収納状態が乱れ、閉じておくべきDNAの領域が緩んで開いてしまったり、逆に開けておくべき領域が閉じてしまったりする。研究チームがマウスの肝臓を詳細に解析した結果、このクロマチンの乱れによって、老化に伴う慢性的な炎症のスイッチが入りやすくなり、同時にエネルギーを作る代謝の機能が低下してしまうことが明らかになった。

 細胞の働きを調整する酵素である「SIRT6」は、これまでも健康寿命を延ばす役割があることで知られていたが、今回の研究でその具体的なメカニズムが判明した。生まれつきSIRT6を多く持つように遺伝子操作されたマウスを調べたところ、高齢になってもクロマチンの乱れが効果的に防がれていた。

 SIRT6は、DNAを巻き付けるタンパク質に起こる加齢特有の化学的な変化(アセチル化)を抑え込むことで、乱れたクロマチンの構造をしっかりと引き締め、若い頃と同じような遺伝子の働きを保つように機能していた。

photo 老化で変化した肝臓のDNA領域の約95%が、SIRT6によって若い状態に保たれた

 さらに、SIRT6が老化の進行を防ぐだけでなく、すでに起きてしまった老化を巻き戻す(若返らせる)効果を示した。高齢(24カ月)にあたるオスのマウスに対し、特定の技術を使って肝臓の肝細胞に特異的にSIRT6を後から導入した。すると導入後およそ1カ月の時点で、加齢に伴うクロマチンの乱れの約8割が元に戻り、若いマウスに近い状態へと若返ったことが確認された。

photo 高齢のマウスに後からSIRT6を送り込み、1カ月後に肝臓のDNAの状態を調べた実験の流れ
photo 老化でほどけた肝臓のDNAを、SIRT6が再び締め直して若い状態に戻す
Source and Image Credits: Nagar, R., Schwartz, Z., Katz, A. et al. SIRT6 overexpression counteracts chromatin aging in the male murine liver. Nat Commun (2026). https://doi.org/10.1038/s41467-026-73115-y


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