2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
イスラエルのバル=イラン大学やアメリカ国立老化研究所などに所属する研究者らがNature Communicationsで発表した論文「SIRT6 overexpression counteracts chromatin aging in the male murine liver」は、加齢で衰えた肝臓を、ある酵素の働きで若い状態へと巻き戻せることを、オスのマウスで示した研究報告だ。
細胞内には、生命の設計図であるDNAがタンパク質に巻き付いて折りたたまれた「クロマチン」と呼ばれる構造体が存在している。若いころは、このクロマチンが綺麗に整理整頓され、必要な遺伝子だけが働くように制御されている。
しかし、加齢とともにこの収納状態が乱れ、閉じておくべきDNAの領域が緩んで開いてしまったり、逆に開けておくべき領域が閉じてしまったりする。研究チームがマウスの肝臓を詳細に解析した結果、このクロマチンの乱れによって、老化に伴う慢性的な炎症のスイッチが入りやすくなり、同時にエネルギーを作る代謝の機能が低下してしまうことが明らかになった。
細胞の働きを調整する酵素である「SIRT6」は、これまでも健康寿命を延ばす役割があることで知られていたが、今回の研究でその具体的なメカニズムが判明した。生まれつきSIRT6を多く持つように遺伝子操作されたマウスを調べたところ、高齢になってもクロマチンの乱れが効果的に防がれていた。
SIRT6は、DNAを巻き付けるタンパク質に起こる加齢特有の化学的な変化(アセチル化)を抑え込むことで、乱れたクロマチンの構造をしっかりと引き締め、若い頃と同じような遺伝子の働きを保つように機能していた。
さらに、SIRT6が老化の進行を防ぐだけでなく、すでに起きてしまった老化を巻き戻す(若返らせる)効果を示した。高齢(24カ月)にあたるオスのマウスに対し、特定の技術を使って肝臓の肝細胞に特異的にSIRT6を後から導入した。すると導入後およそ1カ月の時点で、加齢に伴うクロマチンの乱れの約8割が元に戻り、若いマウスに近い状態へと若返ったことが確認された。
老化したヒト細胞を若返らせる「スイッチ」を見つけるシステム 米国チームが開発 マウスが3週間で8カ月若返り
長生きを妨げる細胞の“ゴミ”発見→掃除したら寿命が延びた? 韓国チームがCell姉妹誌で発表
腸内環境の悪化で脳も老化する? 老マウスの腸内細菌移植で若いマウスの記憶力低下 Natureで研究発表
脳を老化させる“新たな一因”特定、減らすと記憶力が回復 2025年夏にNature系列誌で研究掲載
「オメガ3」だけを3年間毎日飲む→老化抑制に効果 70歳以上の高齢者777人で実験、スイスチームが発表Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR