2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
イスラエルのヘブライ大学などに所属する研究者らが2024年にPNASで発表した論文「Sex bias in pain management decisions」は、 医療現場における痛みの治療において、患者の性別による格差が存在することが明らかになった研究報告だ。
データ分析によると、救急外来を受診した女性患者は、男性患者に比べて鎮痛剤を処方される確率が一貫して低いことが判明した。背景には、医療従事者が女性は男性よりも痛みを大げさに訴えるという偏見を抱いている可能性が指摘されている。
研究チームはまず、イスラエルの病院の救急外来における約1万7000件の医療記録を分析した。その結果、あらゆる種類の鎮痛剤の処方率において、男性が47%であったのに対し、女性は38%にとどまった。
この差は、年齢層や患者自身が申告した痛みのレベル(軽度から重度まで)に関係なく共通して見られた。さらに、担当する医師の性別が男女どちらであっても、女性患者への処方が少なくなる傾向は変わらなかった。また、女性患者は痛みの程度を看護師に記録されにくく、救急外来での滞在時間も男性より平均して約30分長かった。
同様の傾向は、特定の国や医療施設に限られたものではなかった。米ミズーリ大学の病院における約4300件のデータを追加検証したところ、患者が申告した痛みの強さに男女差がなかったにもかかわらず、鎮痛剤を処方された割合は男性の31%に対して女性は26%と、やはり女性の方が低い結果となった。
なぜこうした差が生まれるのかを探るため、研究チームは医療従事者109人を対象とした実験を行った。参加者に10段階中で9という強い痛みを訴える患者のシナリオを提示し、実際の痛みの程度を評価するよう求めた。
その結果、シナリオの患者が女性に設定されている場合、医療従事者は男性に設定されている場合よりも、痛みの程度を軽く見積もる傾向が確認された。
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