西新井エクスペリメント
桜坂洋×セカイカメラ×Twitter新企画、年末年始はiPhone持って足立区へ
小説家、桜坂洋さんと私、堀田純司は、拡張現実(AR)の技術に則った、新たなストーリーの展開を模索しています。
桜坂さんは「よくわかる現代魔法」や、「All You Need Is Kill」などの作品(ともにスーパーダッシュ文庫)で知られる小説家。私、堀田は「自分でやってみた男」(アフタヌーン新書)などの奇書で人に知られないライターです。
桜坂さん、そして後から参加した堀田のこの両者は拡張現実について独自の取材を行い、その技術が社会に普及して可能になる物語や、マネタイズ、パッケージ化について「なにか面白いことができないだろうか」と構想してきました。いや、正確にいうと、“構想を始めよう”としています。
拡張現実とは、デジタル技術によって現実の持つ意味を拡張する技術。強化現実とも呼ばれます。創作物の中では2007年に放映されたアニメ「電脳コイル」に登場した「電脳メガネ」は、こうしたARのツールとして有名でした。あの作品では、子どもでも容易に扱える「電脳メガネ」を通して見ることで、さまざまな情報が現実に重ねて表示されています。
リアルの社会で現在もっともポップなARは、iPhoneのアプリ「セカイカメラ」でしょう。「セカイカメラ」はiPhoneを通じて、誰でも現実の場所にタグを張り、それを閲覧することを可能にしました。また自分のいる位置を登録して、物理空間を移動することでアイテムをゲットできる携帯電話の“位置ゲー”「コロプラ」も盛り上がっています。これは「ケータイは携帯する」という現実の意味をデジタルで拡張した、ARの実に面白い展開だとうらやましく思います。
桜坂さんがこうしたARの技術に惹かれるのは、僕などからすると必然のように感じます。
桜坂さんが2005年に発表した小説「スラムオンライン」(ハヤカワ文庫)は、ネットワーク上の街で戦われる格闘ゲームが、ラストバトルの舞台。この小説では、普通は、映画『マトリックス』(99年)のように二元論的に扱われる仮想と現実が、そのままなだらかにつながって描かれます。
しかもそのつながりは双方向的で、仮想は現実の影であるだけではない。仮想によって現実の解釈も変容します。「スラムオンライン」の主人公は物理空間の街の音を、“SE”と表現していました。こうした小説を書く人が、ARに深く興味をお持ちになってきたのは必然なのだろうか、とはじめてうかがったときに感じたものでした。
ARに萌える
ARの技術も“現実を拡張するという”文字の通り二元論的なセンスではありません。たとえば「セカイカメラ」は、今まではサーバの中に存在し、“URL”というアドレスが与えられ、人は検索によってそれにアクセスしていたデジタルの情報に、文字通りの住所、物理空間の位置を与えます。
これは双方向的な作用を持ち、タグを与えられた現実の場所は、位置を獲得したデジタル情報によってその解釈も変容してしまうことでしょう。恐らく、桜坂さんはそこに「萌え」を感じているのではないかと感じます。
さらにいうと、桜坂さんは、以前、「ある技術が消滅することによって、まったく違うさまざまな生活を送っていた人が、否応なしに互いに直面してしまう」という小説を構想していました。ARの技術は、逆に「普及」することで、やはり、本来は違う島宇宙にいた人たちが相互にコミュニケーションすることを可能にする。そうした「人を結びつける」センスに魅力を感じているのかもしれないなとも思います。
私自身が、桜坂さんからその構想をうかがって「面白い」と感じたのにも理由があるようで、ここITmedia Newsで全文公開もされている拙著「人とロボットの秘密」(講談社)は、知能と人間の体をデカルト的二元論ではとらえず、「体がなければ心もない」というロボット工学に取材したノンフィクションでした。僕も二元論的ではない感覚に「萌え」を感じるのでしょう。
今までは、物語を展開するにあたり、現実に存在しようが、空想であろうが「この物語の舞台は渋谷です。ラクーンシティです」などと設定する必要がありました。しかしARをつかえば、現実の街そのものを舞台に、虚構のレイヤーをかぶせて、そこで物語を展開することができるでしょう。そうすると物語も街によって変容するでしょうし、街の解釈も物語によって変わるでしょう。そうした試みをはじめてみたいと考えています。
たとえばある村が、有名人の出身地になることで意味が変わってしまったり、某アニメの舞台になったことで、某神社が埼玉県で2位の参拝客をあつめて大躍進したりするように、虚構が現実を変容させる営み。あるいはディズニーランドのように現実に虚構の舞台を設定するような営みは、今までもたくさんありました。しかしARによって、こうした営みに、より広くの人が容易に参加できるようになるはずで、これが「技術」というものの特性だと思っています。
「西新井エクスペリメント」始動 年末年始、セカイカメラと足立区へ
そのプロジェクトの最初の実地試験として、この09年の年末から10年の年始にかけて、東京都足立区の関東厄除け三大師のひとつでセカイカメラを使い、桜坂さんが小規模に謎解きをしかける試み「西新井エクスペリメント」を行います。
今回は作中の漢文、古文の担当として、中国の巨大掲示板を実にリアルな言葉使いで翻訳する、人気ブログ「大陸浪人のススメ」の管理人、迷路人さんがゲスト参加。その辺りはなぜか豪華です。
iPhoneをお持ちの方は、初詣はぜひ西新井大師に行くことにして、その地域で「セカイカメラ」をのぞいてみてください。そしてもしよろしければ、虚と現実が織りなす“失われた伝説”を体験して、その感想をぜひTwitterでこのプロジェクトに教えてください。ハッシュタグはnishiarai experiment, experienceをかけ合わせて、#areeです。
また「iPhoneかよ。俺は持ってないから関係ないや」と思われたそこのあなた! なにを隠そう、このようなことを長々と書いてきた私も、桜坂さんから白い眼を向けられながらも、iPhoneを持っていません(それどころかケータイも携帯しないという噂も)。このプロジェクトの展開は、まったくiPhoneだけに限りませんので、今後も気にかけておいていただけますと幸いです。
堀田純司
1969年生まれ。ライター、編集者。編集者としては「えの素トリビュート」「生協の白石さん」などを企画編集。ライターとしては「萌え萌えジャパン」「人とロボットの秘密」(ともに講談社)などの著作がある。
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