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» 2009年06月26日 14時30分 UPDATE

「これは、出版テロだ」 突き抜け過ぎた新書「自分でやってみた男」

あの映画のあのシーンを、自分でやってみて写真を撮る。そんな大人げない遊びが、新書になってしまった。「これは出版テロ。どうせ散るなら華々しく散ってみせたい」と筆者は話す。

[岡田有花,ITmedia]
画像 自分でやってみた男

 「こ、これは、売れんな。出版テロだ……」――筆者自身がそう話すほど突き抜け過ぎた新書「自分でやってみた男」がこのほど、講談社アフタヌーン新書から出版された。

 気になる映画やアニメのヒーローになりきり、ワンシーンを実際に「自分でやってみた」という書籍。ページをめくると、新書らしくない落ち着きのない紙面と、やたらと大きな写真が目に飛び込む。

 映画「300(スリーハンドレッド)」のシーンを再現する男性陣、「グラディエーター」の剣士の格好をした男性の見開きドアップ、「北斗の拳」のケンシロウになりきった男性などなど、見知らぬ男たち(たまに女性)が「やってみた」写真が、これでもか、これでもかと迫ってくる。


画像 なにやら大変なことになっている
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画像 解説はわりとまじめ

 「子どものころなら遠慮なくやれた。テレビを見てあこがれたヒーローのまねを、誰はばかることなく演じることができた。だが、大の大人がごっこ遊びをしていて白い目で見られずにすむということはない。日本社会は、そこまで寛容ではない。……だが、やってみた」(前書きより)

 ほとんどの“やってみた写真”に、題材となった映画をまじめに分析した解説文も付いている。やってみた感想が随所に織り交ぜられているものの、よく読んでみると、映画のテーマや監督の意図を鋭く分析したまっとうな映画批評。隣に載っているバカ写真と好対照を成している。

 筆者の堀田純司さんはいたって真剣だ。「いい大人がくだらないことを、とことん一生懸命にやる。無駄なことが切り捨てられる不況期に、くだらないことを真剣にやる価値を伝えたかった」と。

大人が真剣にバカをやる

画像 ブラック・スネーク・モーン(書籍にはモノクロ版が掲載されている)

 “大人のバカ”には多大な労力がかかっていると、堀田さんは解説する。自分でうまく“やってみる”ことができそうなシーンを探すため、「嫌になるぐらい」映画を見た。衣装など撮影の小道具は、100円ショップで買い集めて自作した。

 実際に演じた“俳優”や“女優”は、講談社で働く編集者やライターが中心。激務の中「命を削って」協力してもらったという。

 撮影場所も講談社の会議室がほとんどだ。映画「28日後……」でゾンビがドアに阻まれるシーンでは、俳優たちに、社内の階段の出口にあるガラスドアに“ゾンビ風”の表情で張り付いてもらって撮影。「ブラック・スネーク・モーン」のポスターでは、鎖につながれた半裸の女性を再現しようとしたが、「半裸になってくれる女性の知り合いもいなかったので」、会社にエアドールを持ち込んだ。


画像 恐ろしきゾンビたち(ロケ地・講談社)

 米国中西部・ワイオミング州の美しい自然を舞台に恋愛を描いた「ブロークバック・マウンテン」は荒川の河川敷でロケ。ラスベガスのカジノを舞台にした「リービング・ラスベガス」は、「同じギャンブルだし」ということで、池袋のパチンコ屋の前で撮影した。

 現場でのディレクションも真剣だ。再現したい名場面のテレビ画面をデジタルカメラで撮影、印刷して現場に持ち込み、見比べながら立ち位置などを細かく指定していった。

 撮影したのは、講談社の雑誌などで活躍するプロカメラマンの金澤智康さん。CG技術も駆使し、「スターシップ・トゥルーパーズ」の昆虫型エイリアン「バグ」を描いたり、半裸の男性の写真を増殖させるなどし、それらしい画像を作り出した。


画像 荒川はワイオミングだ
画像 カジノもパチンコも、同じギャンブルじゃないか

 「Webで似たようなことをやっている人もいますが、こちらはカメラマンがプロ。正直、勝ったと思います」と、堀田さんは大人げないことを言う。

 編集には、アフタヌーン編集部の漫画編集ノウハウが生きている。写真ページは裁ち切りを多用。見開きいっぱいを1枚の写真で占めるなど、新書のルールを大きく外れた構成だ。「ゲラをいろんな人に見せたところ、『これ、本当に出版するの?』と驚かれた」と、アフタヌーン編集部の井上威朗さんは話す。

 単なるネタ本以上の意味もあるという。「ある高名な評論家が、『映画評論はやり尽くされているが、自分でやってみるという手法は、対象の新しい楽しみ方を提供している』と評価してくれた。ギャグ本だが、批評の新スタイルを確立している」(井上さん)

「どうせ散るなら華々しく」

 堀田さんは決してイロモノライターではない。「生協の白石さん」を企画・編集してベストセラーに導いたほか、ロボット工学を人間学として問い直し、最前線の研究者にインタビューした「人とロボットの秘密」など、哲学的な視点を織り交ぜたノンフィクションにも定評がある。新書向けにも、もっとカタい企画も提案したという。

画像 堀田さん(右から2番目)と井上さん(最右)。映画「リベリオン」の「ガン=カタ」(ガンアクションと格闘技を融合した武術)を再現中

 だが、アフタヌーン編集部の井上さんが採用したのは、「いい大人が、映画やアニメを自分でやってみる」というあまりに新書らしくない企画。「マーケティング一切なし。極端なものを次々と出す」というアフタヌーン新書のコンセプトに、この企画がぴったりだったという。

 「講談社には、現代新書や+α新書など、まっとうな新書がある。ほかの新書編集部ができないような本を出したい。ノンフィクションライターとして名のある堀田さんにあえてこれをやってもらうことで、堀田さんのライターとしての評価が地に落ちたら面白い」と井上さんは不敵に笑う。

 先の見えない不景気の中、無駄が削られ、現代人はどんどん保守的になっている。「これから先、われわれのように、無駄を顧みずバカをやる人は消えていくだろう。『俺は確かにここにいた』という爪あとを残したい。どうせ散るなら、華々しく散ってみせたい」と、堀田さんは不思議なやる気を見せている。

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