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Macを未来へと前進させる低価格化戦略WWDC 2009現地リポート(2/3 ページ)

WWDC 2009の基調講演の様子を、直後に行われたインタビューの内容を交えながら振り返ってみる。まずは新型「MacBook Pro」と次期Mac OS X「Snow Leopard」編だ。

Webブラウジングを未来へと前進させる「Safari 4.0」

JavaScriptの実行速度比較

 Webブラウザとしては「Safari 4.0」を標準搭載する。この新ブラウザは、WWDC 2009開催と同時にMac OS XのTiger版とLeopard版、WindowsのXP版とVista版の配布が始まっている。機能面で見ると、ユーザーが最もよく利用するトップWebサイトをサムネイル表示する点が大きな特徴だが、それに加えてやはり圧倒的スピードが強みだ。同社によれば、SunSpiderというテストを用いたJavaScriptの実行速度比較では、Internet Explorerの7.8倍という結果をはじき出している。また、Webページをいかに正確に描き出せるかを計るAcid3というテストでも初めて100点満点を達成した(ちなみにInternet Explorerは21点)。

 と、ここまでは今回リリースされた現行のSafari 4の特徴だが、これに加えてSnow Leopard上のSafari 4.0では、さらに大きな進化を果たす。

 まずは、Webページの描画処理が細分化され、ページ上の1要素の描画に大きな負荷がかかった場合でも、ブラウザをフリーズさせず軽快に動作させる仕組みを採用する。例えば、接続が悪くFlashのプラグインやストリーミング動画の読み込みがいつまでも終わらない状態になっても、ブラウザそのものの動作を止めずに、そのページ要素の部分にエラーメッセージを表示したうえで、ユーザーに待たせずにページを描き切るようになる。

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 また、JavaScriptの実行エンジンを64ビット化することで、もともと速いJavaScriptの実行速度をさらに最大50%ほど高速化する。細かなユーザーインタフェースの変更で言えば、過去にアクセスしたWebページの履歴をサムネイルを使ったカバーフローで表示できる機能も加わっている。

未来のアプリケーションを創出する技術基盤

Snow Leopardの特徴

 このように、Mac OS X “Snow Leopard”は、すでにある機能を大幅にブラシュアップしているが、それに加えていくつかの新しい技術基盤も取り入れた。

 サレー氏は、最近のMacのハードウェアでは、特にメモリが大容量化し、多数のコアを持つCPUや強力なGPUを採用していることに触れ、OS側でもこうしたハードウェアの特徴を生かす必要があると述べた(これこそハードウェアとOSの両方を作るアップルだからこそできることだろう)。

 これらのハードウェアの特徴を生かすために、アップルがSnow Leopardで取り入れた特徴の1つめがOSの64ビット化だ。これまでのMac OS Xではメモリは実質4Gバイトまでしか扱うことができなかったが、64ビット化により160億Gバイトまで扱えるようになった。また演算処理も最大で2倍高速化できるようになるという。この64ビット化は、Macで搭載しているIntel Core 2 Duo以降のインテルCPUがすべて64ビット仕様であるおかげで実現した。

 Macの最近のCPUにはもう1つ特徴がある。それは、CPU内にプログラムを実行できるコアが複数搭載され、さらに機種によっては、そうした多コアのCPUそのものも複数搭載するようになった点だ。

 数年前までのPCでは、CPUの動作速度を上げることで処理の高速化を図ってきたが、最近はそうした方法での高速化の限界が近づいてきたため、CPUコアをたくさん搭載し、連携処理させることで高速化させるのがトレンドになっている。1人の人間の処理能力を限界まで高めるよりも、処理能力の高い人を複数雇ったほうが仕事が早く進む、というわけだ。

 ただし、こうした複数人での作業は、各人の連携が取れてこそうまくいく。今日のMac OS Xは、CPU同士の連携をかなりうまくやっているようだが、それでもまだ改善できる点はある。例えば、ある1つのアプリケーションの実行中に行なう処理が10個あったとする(それぞれをスレッドという)。すると、今まではCPUに対して10個分の仕事を割り当てて拘束してしまっていた。これに対してSnow Leopardでは、「Grand Central Dispatch」と呼ばれる、仕事の交通整理をする仕組みを取り入れた。つまり、アプリケーションがCPUを勝手に拘束する前に、交通整理の機能を入れて、本当に必要なときだけ拘束を許すようにしたのだ。これにより、実行中のアプリケーションであってもあまり使っていない時には、CPUがほかのアプリケーションに余力を回しやすくなり、結果として快適な操作につながる。

 3つ目は、最近のMacが搭載している、ありあまる処理能力を備えたGPUの活用だ。最近のMacが搭載しているGPUの中には1テラフロップという高い処理能力を持つものもある。この処理能力を、ただ3D画像の表示時だけに使うのはもったいない。そこでアップルは、GPUの処理能力をグラフィックス機能以外の目的に使う「OpenCL」という技術標準を提唱した。これはすでにIntelをはじめ、NVIDIA、Qualcomm、Texas Instruments、Broadcom、Freescale、東芝、富士通、Electronic Arts、HI Corpといったチップメーカーや3D技術の開発者もサポートを表明している。

 OpenCL技術を使うと、C系の言語を使って、どのメーカーのGPUを使っているかを意識せずに、高度な演算処理が可能になる。演算処理はOpenCL技術によって自動的に最適化され、正確さが保証される。サレー氏は、64ビット化とGrand Central Dispatch、OpenCLといった基盤技術の整備が、これまでになかった新しいアプリケーションを創出する可能性を示唆した。

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