IE9で探るMicrosoftとHTML5の関係:MIX10(3/3 ページ)
MX10で性能の一端を公開したInternet Explorer 9。その重要な機能の1つが「HTML5」対応だ。次世代Webブラウザが対応する最新HTMLでWebの世界はどう変わる?
Acid3による「標準化の指標」に異を唱える
このように段階的な標準対応を進めてきたMicrosoftは、IE9である程度の成果を出すことになる。大きなポイントは、HTML5サポートを正式に表明したことだ。HTML5自体はほかのWebブラウザでもドラフトの仕様を実装している段階だが、IE9でようやく競合Webブラウザに追いつくことになる。そして「(インライン)SVG」「CSS3」「DOMレベル3」といった最新標準もサポートされる。Microsoftによれば、これらの実装はまだ開発途上にあるというが、製品版では完全なサポートが行えるよう作業を進めているという。
標準化対応の指標となるAcidベンチマークテストだが、現在は、CSS3などもサポートしたAcid3がよく利用されている。Acid3はHTMLやCSSの実装状態を複数の機能を使ってテストするJavaScriptプログラムだが、レンダリングエンジンとしてWebKitを採用したChromeとSafariはAcid3で「100」のスコアを出す。一方、IE8のスコアは「20」であり、IE9は2009年11月に開催されたPDC 2009で「32」のスコアを出したことがアピールされた。現在、IE9のスコアはプレビュー版の段階で「55」まで改善された。だが、米MicrosoftでIEチームを率いるゼネラルマネージャーのディーン・ハチャモビッチ氏は、「もちろんAcid3のスコア向上は重要な課題だが、同時にAcid偏重の風潮にも疑問がある」という。
ハチャモビッチ氏は、「Acid3は標準対応を評価するベンチマークテスト」といいつつも、実装における表現性の問題をカバーできていないと考えており、実装問題に関する100以上のケースを集めてW3Cに提出したことをMIX10で報告している。「Acid3もさることながら、こうしたCSSの実装に関わる解釈の違いを業界全体で解決していくのも重要だ」というのがハチャモビッチ氏のメッセージだ。
同様に、Acidでカバーされない実装の問題はほかにもある。MIX10でデモを行ったIEチーム リードプログラミングマネージャーのテッド・ジョンソン氏とヨハン・ハバティン氏は、異なるWebブラウザでカラープロファイルに関する比較デモを紹介した。このデモでは、IE9ではInternational Color Consortium(ICC)のカラープロファイル仕様のバージョン2と4に対応しているのに対し、Mozilla FirefoxやGoogle Chromeでは正常に画像を表示できないと指摘している。
HTML5の表現力をさらに向上させる機能をIE9に
IE9に関する情報が数多く発表されたMIX10だが、MicrosoftはHTML5対応ですべての情報を公開したわけではない。その典型的な例が「<CANVAS>タグ」のサポートだ。CANVASタグはHTMLだけでWebページにビットマップ描画を可能にする。画像の埋め込みが中心だったら従来のHTMLに比べ、表現方法が広がることになる。このCANVASタグを体験するのに最適なアプリケーションが「Sketchpad」だ。何の変哲もないレタッチソフトに見えるが、実はこのアプリケーションはすべてHTML5とJavaScriptで実現されている。CANVASタグを使えば画像の加工やイラストのドローイングもできることを示している。同種のアプリケーションをFlashやJava Appletを使って実現した例はこれまでもあったが、HTMLだけでもプラグインなしで実現できるようになる。
しかし、ハチャモビッチ氏は、CANVASタグのサポートについて何も言及していない。その一方で、SVGを訴求しているので、CANVASタグではなくSVGで同様の機能を実現することを示唆しているようにもとれる。SVGはベクトルを使った図形描画に優れており汎用性が高いといえる。一方、図形の構造化データをXML形式で逐次格納するため、実はSketchpadのようなアプリケーションに応用しにくいという面もある。
MIX10が開催された同じ日に、米AMDがBlogに記載したコメントが一部の関係者に注目された。これは、Microsoftが自社のレンダリングエンジン「Trident」が、「Direct2D」(D2D)と「DirectWrite」でGPUを使ったハードウェアアクセラレーションによるHTMLの高速描画をサポートしたことを賞賛するメッセージだが、この中で、CANVASタグに言及していたため、「CANVASタグの実装に関してMicrosoftは前向きなのでは?」と推測されたからだ。
しかし、現在Blogの内容は修正されており、CANVASタグに対するMicrosoftの考えは依然として見えてこないままだ。HTML5で期待されるほかの機能の実装も含めて、MicrosoftにはIE9に関するさらなる情報の公開を期待したい。
関連キーワード
Internet Explorer | IE 9 | ブラウザ | Microsoft | Acidテスト | JavaScript | HTML5 | CSS | Internet Explorer 6 | 標準化 | タグ | Google | IE 8 | Internet Explorer 7 | SVG | Windows | Windows 7 | CSS3 | Google Chrome | JavaScriptベンチマーク | Netscape | RIA | XML | Firefox | Firefox拡張機能 | Google Maps | Safari | Webアプリケーション | Ajax | Flash | Mozilla | マッシュアップ | Opera | スクリプト言語 | Silverlight | WebKit
関連記事
Internet Explorer 9はGPUで武装する
「遅い!」といわれるInternet Explorerシリーズだが、最新のIE9β版がMIX10で登場した。ライバルを超える性能を動画で体感しよう。Windows 7のロケットスタートでMicrosoftはどこへ向かう?
“Azureが主役”だったPDC09だが、「クライアント・デイ」と呼ばれた2日目では、Windows 7とインターネット周辺サービス技術で着目すべき情報が紹介された。Microsoftはハイブリッドな戦略で古い殻を脱ぎ捨てる
Windows 7で盛り上がったPDC08から1年。PDC09のキーワードは「Windows Azure」だ。大企業向けと思いがちだが、意外にもSOHOや個人にも関係するという。すべてのレガシーを見直して2010年度を飛躍の年に――マイクロソフト新年度経営方針
マイクロソフトが2010年度の経営方針を発表した。リセットピリオド後の飛躍に向けて、その土台は整ったという。「クラウドに100%コミットしている」――MicrosoftバルマーCEO 来日語録
米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOが先週来日し、記者会見や講演で同社の戦略などについて語った。その中から印象に残った発言をピックアップしてみた。GoogleやAppleにどう対抗 MicrosoftバルマーCEOが語る
PC向けOSやWebブラウザなど、Microsoftがトップシェアを維持してきた分野でライバルが存在感を増している。来日したバルマーCEOが、Mac OSやFirefox、Googleの検索サービスなどの評価や対抗策を話した。企業向けクラウドに自信――MicrosoftのバルマーCEOが会見
米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOが来日した。記者会見の一問一答で、同社のクラウドコンピューティングに関する見解を語った。「WinHEC 2008 Tokyo」でアピールされたWindows 7
東京都内で「WinHEC 2008 Tokyo」が開催され、Windows Vistaの後継OSとなるWindows 7について講演が行われた。その模様をお届けする。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.