新しいアップルと、デザインが持つ本当の意味:WWDC 2013所感(後編)(5/5 ページ)
ティム・クック時代の新生アップルは、ハード、OS、アプリ、サービス、さらには会社そのものまで再デザインした。林信行氏がWWDC 2013の内容を読み解く。
WWDC 2013の最重要キーワードは「デザイン」
WWDC 2013の基調講演を“8つの新製品の発表会”として考えると、ただ物量が多かっただけの製品発表イベントに見えてしまうかもしれない。
だが、イベントの冒頭と最後をサンドイッチするように提示された「Designed by Apple in California」という標語の「Design」という語に注目して基調講演の内容を読み解き直してみると、なんとアップルは、わずか2時間の間に、新しいデスクトップPCのデザインも、新しいMac用OS/iOSのデザインも、その上で利用するネットワークやアプリケーションも、PCやスマートフォン、タブレットの利用に関わるすべてのレイヤーにおいて再デザインを試みていることが分かる。まさにティム・クック時代の新しいアップルが始動した、ということが実感できるはずだ。
いずれは、iOSのフラットデザインにあわせて、Mac側のOSもフラットなレイヤーの重なり合う世界観で表現されるのかもしれないし、iPhoneやiPadのハードも、iOS 7の世界観にマッチした形状に変わっていくのかもしれない。そういう意味では、今回のWWDC 2013の基調講演は、アップルのエキサイティングな新時代の幕開け、ともいえる記念すべきイベントとして将来振り返ることになるだろう。
ハードからOS、アプリケーション、クラウドサービスに至るまで、新CMで「これだ。これこそが、大切なんだ」という体験を生み出すことを狙って行なわれた新生アップルのデザインだが、実はこれらのデザインの多くには、共通して1つの特徴があることにみなさんはお気づきだろうか。
それは「円」だ。スティーブ・ジョブズ氏は、正方形や立方体という形にひかれており、ネクスト社時代にはNeXT cubeという立方体のPCをリリースし、アップルでもPower Mac G4 Cubeを出し、Apple TVやAirMacベースステーションでも正方形を基調とした。これに対して、ティム・クックとジョナサン・アイブの2人による新体制のアップルでは「円」を基調にしているように思える。
そういう仮説を立てて、改めてアップルの新製品を振り返ってみると、3角柱を形作る基板にCPUとGPUを配したMac Proは、円柱状の外観になっている。
またOS X Mavericksのロゴマークも白い丸の真ん中に「X」の文字を配している。さらにiOS 7では、前述したように電波の受信感度のマークから、ホーム画面のアイコンまで丸が基調になっている。
もっとも、AirMac Extreme/Time Capsuleは円柱ではなく直方体だし、iWork for iCloudやiTunes Radioにも「円」は関係ないので、筆者の単なる思い込みかもしれない。
だが、「Designed by Apple in California」をサインとして掲げるアップルの2015年完成予定の新社屋は、みなさんもよくご存じの通り「円形」になっている。
スティーブ・ジョブズ氏が傾倒していた「禅」の世界では、「円相」は「絶対の真理」を表しているという。これは素材1つ1つや、その使い方が、製品の本来の目的に対して正直かつ忠実であることを最重要視するジョナサン・アイブ率いるアップルデザインチームの姿勢にも通じるものがある。
ちなみに、ジョブズ氏が愛した「四角」という形は、「禅」の世界では「とらわれた心」を表しているという。
1996年、破滅の寸前にあったアップルを、わずか15年で時価総額世界一にしたスティーブ・ジョブズ氏の15年間は、確かにすごいものがあった。彼が世に送り出したiMacやMac OS X、iTunes、iPod、iPhone、そしてiPadは、いずれも世界の風景を変えてしまった。
その成功体験にとらわれて、新しいアップルが生み出そうとしている価値を曇ったメガネで見てしまうか、それとも、まっさらな気持ちで受け取るかは、もちろん個々人の自由だ。
しかし、これからアップルの勢力が伸びていく中国や東南アジア、アフリカ、中南米といった膨大な人口の国々の人々は、そもそも“これまでのアップル”という既成概念にとらわれずに新生アップルの製品に触れることになる。アップルの製品がこれらの市場で受け入れられれば、それがそのまま新しい世の中の大きな流れになっていくことは、間違いないだろう。
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