Brand New PC Style:GUIの次を探る。それがペン・コンピューティングです。 ー東大GUI研究者の五十嵐健夫氏に聞くータブレットPCは、新たなPCの姿としてペン・コンピューティングを現実のものとした。しかし、ここに至るにはユーザー・インタフェースに関するさまざまな挑戦があったことはいうまでもない。それではペン・コンピューティングはこれまでどのような歴史をたどり、なぜ必要とされるのか? ペンを使ったユーザー・インタフェースを研究課題としている研究者、東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻講師の五十嵐健夫氏にお話をうかがった。五十嵐氏は、2000年3月に東京大学の情報工学専攻で博士号を取った後、2年程、ブラウン大学においてポスト・ドクターを経験し、2002年3月よりコンピュータ科学専攻で講師として東京大学に籍を置いて、研究活動している。学生時代には、ゼロックスのパロアルト研究所やレドモンドのマイクロソフト・リサーチなどの企業の研究所、そしてカーネギーメロン大学において研究活動をした経験を持つ。ユーザー・インタフェースやコンピュータ・グラフィクス関係を研究テーマとしており、中でもペンを使ったインターフェイスには以前から興味があったという。 チバ 五十嵐先生は最初からペン・コンピューティングについて研究されていたのですか? 五十嵐 はい、学生時代からペン入力のためのインタフェースについていろいろと研究してきました。最近、ハードウェアがいろいろ出てきたのでうれしく思っているところです。 チバ では、やはりPalmなんかをお使いなんでしょうか? 五十嵐 それが僕自身は手帳を使ってまして。個人的にもうちょっと大きなものに興味があります。電子ホワイトボードとか、そういったものです。 チバ 具体的にはどういったことを研究課題とされているのですか? 五十嵐 ヒューマン・コンピュータ・インタラクションとか、ユーザー・インタフェースとか。つまり、コンピュータを使いやすくしたい、という分野の研究です。グラフィックスとユーザー・インタフェースの中間のような研究とも言えますね。この分野の課題は、GUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)の次を探りたい、ということですね。VR(ヴァーチャル・リアリティ)やユビキタス・コンピューティングなんかもこの分野から出てきているのですが、僕はその中でもペンに注目しているというわけです。 チバ 「GUIの次」とはどのようなことなのですか? 五十嵐 GUIは以前に比べて随分、使いやすくはなっているのですが、やはり限界があります。ボタンがどんどん増えていって、どこに何があるのかわからなくなっています。コマンドを知っていればいいのですが、知っていても何度もコマンドとコンテンツの間を行ったり来たりしなければならない。問題をあげればきりがないんですが、そうした問題を今のGUIは抱えているわけです。僕はその中で、ペンをもっと活かしたものをやりたい、と考えています。 チバ ペンを使ったものはこれまでもいろいろあったと思いますが。 五十嵐 ivan sutherlandのsketchpadが最初のペン入力(ライトペン)といえますね。1963年のことでした。その後、1980年代にはさまざまな研究プロジェクトが進められて、1990年代には製品化が実現しました。PDAとしては、GO、Apple Newton、ザウルス、Palm、Pocket PCなどがありました。中でもGOやNewtonはジェスチャー入力など、ペン専用の先進的なインタフェースを採用しましたが、ビジネス的には成功しませんでした。その点、PalmやPocket PCはそれらと比べると割と保守的なものでしたが、ビジネス的には成功をおさめました。 チバ PalmやPocket PCといったPDAはいまでは広く普及していますね。Windowsのペン・コンピュータも一時期ありましたね。 五十嵐 ええ。Windowsのペン・コンピュータは1990年代の後半にたくさん登場しました。Microsoftが「Windows for Pen Computing(Windows 3.1)」、「Penservices for Microsoft Windows 95」といったペン・コンピュータ向けのOSを開発しました。これらに対応した機器として、三菱電機の「AMiTY(アミティ)」、富士通の「FM Pen Note」、シャープの「Copernicus(コペルニクス)」というように各社が競って製品化しました。化粧品販売員用とか、在庫管理用といった形でニッチ向けにはそこそこ出たようですが、一般に広がるまでには至りませんでしたね。個人的にはAMiTYを愛用していたんですが、起動が遅くて、さっとメモを取るときなどには使い物にならなかったですね。 チバ PDAの浸透度合を考えるとペン・コンピューティングはすでに普及している、と言えるのではないのでしょうか? 五十嵐 ペンを使ったデバイスは、PDAとか、大きなペン・タブレットとか、いろいろなものが出てきていますが、GUIはそのままなんです。ペンを使ってはいるけど、結局、ペンがあって、フォームがあってと、あくまでマウスのためにデザインされたインタフェースなんですよね。ペンの良さを活かしていない。「ペンの良さを活かしたインタフェースを作りたい」、僕の研究課題はまさにそこにあるわけです。 チバ ペンの良さとはどのような点なのでしょうか? 五十嵐 ペンの利点はいろいろあるのですが、個人的には3つの要素に興味があります。まず、絵を描くのに適しています。マウスで絵を描くのは非常に難しいですが、画面一体型のペンの方がそうした作業に適しています。例えば、通常のドローイング・エディタを使って絵を描こうとすると、半分描いて、複製して、反転して、移動して、とコマンドをどんどん組み合わせていかなければならないわけで、非常に直感的ではない、というGUIの問題点があるわけです。ユーザーが「これをやりたい」という明示的にコンピュータが理解できる命令の列に変換してやらなければならないわけです。 [チバヒデトシ, ITmedia ] 前のページ | 1/2 | 次のページ Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. FeaturesPICK UP
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