孫社長の「検討してみましょう」から始動――約3カ月で導入した「海外パケットし放題」:“日額1480円”の舞台裏(1/2 ページ)
「全社的に動いたのは孫社長のツイートから」「目標は夏休みシーズン」――そんな短期間での準備を余儀なくされたソフトバンクモバイルの「海外パケットし放題」。導入の経緯から料金、対応国と地域の計画、事業者との交渉まで、舞台裏を同社に聞いた。
ソフトバンク端末で海外のパケット通信を定額で利用できる「海外パケットし放題」が7月21日から開始された。料金は2011年6月30日までが日額0〜1480円、2011年7月1日以降が日額0〜1980円。対応機種は「世界対応ケータイ」対応のソフトバンク3G端末とiPhone、iPad、スマートフォンのXシリーズ。これまで、海外のパケット通信には従量課金制が採用されていたので、通信するほど高額になり、気軽にメールやインターネットを利用できる環境ではなかったが、今回の新サービスにより、そのハードルが下がったといえる。
海外パケットし放題はどのような経緯で実現したのか。また料金はどんな基準で設定されたのか。ソフトバンクモバイル マーケティング統括 料金サービス統括部 国際サービス部 事業企画課 課長の小林靖氏と、マーケティング統括 料金サービス統括部 国際サービス部 事業企画課の山本里香氏に話を聞いた。
夏休みシーズンを目指して約3カ月で準備
今回の海外パケットし放題が公になったのは、孫正義社長が4月下旬にTwitter上で「検討してみましょう」と宣言したことがきっかけだった。実際は孫社長がつぶやく前から水面下でプロジェクトが進んでいたのかと思いきや、本当に孫社長がつぶやいてから着手したのだという。「以前から海外でのパケット定額サービスは検討はしていましたが、会社全体で動いたのは孫社長がツイートしてからです。夏休みシーズンに何としても間に合わせたかったので、第1目標を7月として取り組みました」(小林氏)。
通常、料金サービスの開始までには「半年ほどの期間を要する」(小林氏)が、今回はその半分ほどの3カ月弱でサービス開始に至ったのだから、スピードを求められたが故の苦労は想像に難くない。小林氏も「短期間で進めたことが最も大変でした」と振り返る。
競合他社のサービスを参考に料金を決定
海外パケットし放題は2011年6月30日までは日額1480円で利用できる。この料金を安い、高いとみるかはユーザーによって異なるだろうが、従量課金制よりもはるかにリーズナブルになったことは明白だ。この1480円、そして2011年7月1日以降の1980円という額はどのような基準で決まったのだろうか。
2011年6月30日までは日額最大1480円で海外のパケット通信を利用できる。ソフトバンク3G端末は286Kバイトまで、iPhone、iPad、Xシリーズは740Kバイトまでは従量課金となる。定額料はどの国と地域でも一律だが、従量課金の額(グラフが傾斜する角度)は国によって異なる
まず、出張や旅行など、海外に行くのは1カ月未満のケースがほとんどなので、「大きな負荷もなく一番使いやすいのが日額」(小林氏)と考えた。この日額料金を決定するに際には、NTTドコモのPCデータ通信の準定額制(12万パケットまで日額2000円)や、Wi-Fi経由で海外のパケット通信が利用できる、インターコミュニケーションズの「MiFi」(日額1580円)などの類似サービスを参考にした。
同社は海外パケットし放題の料金について「動画などを利用する場合は日額の上限額を2980円にする」と案内している。この「動画など」にはどのようなサービスが含まれるのだろうか。小林氏は「詳細はまだ決まっていません。データ量が大きくなるようなサービスの利用が含まれます。案内できる準備が整ったら告知します。それまでに日額の上限が1480円や1980円を超えることはありません」と説明する。当面は動画も含めて日額1480円で利用できるので、とりあえずは安心だ。
社内では「長期で滞在するお客さんもいるのでは?」という意見もあり、月額プランを用意する案も検討したそうだが、「大多数のお客さんは個人で旅行をするケース」(小林氏)だったため、今回は見送った。「複数のプランがあってもいいと思うので、お客さんの要望が強ければ、月額のプランも検討したいですね」(小林氏)。
海外パケットし放題の魅力は「完全定額」であることはもちろん、専用端末をレンタルせずに、普段使っているケータイを「海外でもそのまま使える」ことと、「申し込み不要(※国内のパケット定額サービスに加入している必要はある)」であること。SIMロックフリーの端末と海外のSIMカードを調達する方法もあるが、異国の地で端末やSIMカードを購入することにハードルの高さを感じる人もいるだろう。手間をかけずに海外でパケット定額を利用できるのは、大きなメリットといえる。
一方、申し込み不要であるために、海外パケットし放題をどのように告知するかという課題もある。その1つの方法として、ソフトバンクモバイルは7月からSMAPと白戸家が登場するCMをオンエアして周知を図る。「国際サービスのCMを投下したのはボーダフォン以来」(小林氏)。CMはソフトバンクモバイルのWebサイトから視聴できる。
ネットワークの手動設定は「事前告知を徹底する」
手軽に利用できるのが海外パケットし放題の魅力だが、海外に到着後、対応する通信事業者のネットワークに接続する必要がある点は注意したい。例えば韓国の場合、SK Telecomが対応事業者なので、同社のネットワークに接続すれば定額で利用できるが、他社のKTFやLGテレコムに接続すると、当然ながら定額の対象外となる。自動接続で必ずしも対応事業者へ接続するとは限らないので、場合によっては手動で設定する必要がある。ケータイの画面に「現在定額で接続中」といったアイコンなどは表示されないので、自分の設定だけが頼りになる。
ネットワークを手動で設定する作業は、慣れないユーザーはその操作法に戸惑ったり、うっかり忘れてしまうこともあり得る。この点について山本氏は「Webサイトや請求書のレター、カタログ、モバイル版のWebサイトなどで事前の案内を徹底しています」と説明する。「今後の課題はいかに簡単に(対応事業者へ)接続できるか。究極的には自動で接続できればいいですね」(小林氏)
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