「潮の満ち引き」から利益は出るのか?ウイークエンドQuiz(2/5 ページ)

» 2013年12月22日 04時30分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

正解:

 e. 韓国

ミニ解説

 潮汐(ちょうせき)発電は、海洋からエネルギーを取り出す発電の1種だ*1)。潮汐による海水の高さの違い(位置エネルギー)を利用する。

 潮汐発電とよく似ているのが、「潮流発電」だ。潮の満ち引きの際には海水が水平方向に流れる。この海水の流れ(運動エネルギー)を利用するのが潮流発電である。ミニ解説では2つの発電方式を紹介していく。

*1) 海洋エネルギーにはこの他に、深海の海水と表面の海水の温度の違いを利用する「海洋温度差発電」や黒潮などの決まった流れを利用する「海流発電」、打ち寄せる波を使う「波力発電」、塩分の濃度差を利用する「塩分濃度差発電」、海中の生物資源を使う「海洋バイオマス発電」、海を立地として使う「洋上風力発電」などがある。

 潮汐発電は潮の満ち引きという分単位で予測可能な周期的な現象に基づいている。気象の影響(低気圧や強風による高潮)はあるものの、基本的には出力を確実に予測でき、急激な出力変動もない。従って、ベース電源として使いやすい。

 潮汐発電所には適地がある。最大の条件は潮汐の規模、すなわち干潮時と満潮時の海面の高さの差(潮位差)が大きいことだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によれば、平均潮位差が5m以上あると潮汐発電所を実用化できるという。取り出せるエネルギーは潮位差の2乗に比例するため、潮位差が2倍違うと、エネルギーは4倍変化する。

 もう1つの条件は地形だ。入り口が狭く、内部が広い湾に建設することが好ましい。湾であれば小さな堤防を作るだけで大量の海水を利用でき、発電所の建設コスト低減に効いてくる。

 このような条件を満たす立地は多数ある。しかし、大規模な潮汐発電所は現在、世界に2カ所しかない。韓国とフランスだ。2つの発電所の合計出力494MWは、2012年末の全世界の海洋エネルギー発電所の合計出力527Mのうち、93.7%を占めている。つまり、潮汐発電所は現時点では海洋エネルギーの旗手だということだ。

図1 始華湖潮汐発電所(赤)と珍島潮力発電所(青)、ソウル(黄)の位置

 世界最大の潮汐発電所「始華湖潮汐発電所(Sihwa Lake Tidal Power Station)」は韓国の北西部にあり、黄海に面している(図1)。ソウルの南西に位置する京畿道始興市に作られた人造湖である始華湖を利用した。ソウルからの距離は約40km。

 始華湖は本来、発電のために作られたものではない。当初の計画は海岸に近い2つの島を利用して4つの防潮堤を築き、始華湖(43.8km2)を形成、干拓(1万3345km2)を実現するというものだった。農地と工業用地を得るのが目的だ。防潮堤は1994年に完成し、堤防を締め切って流入河川による淡水化が進んでいった。

 ところが工場排水(重金属)と生活排水(有機物)が流入し、深刻な水質汚染が起こった。韓国の海洋水産部によれば、1990年代後半、始華湖は「死の湖」と呼ばれていたのだという。そこで1997年、開門に踏み切る。まず海水を部分的に導入した。2000年には淡水化を放棄、海水化へと方針を切り替えた。

 始華湖の位置では最大潮位差が10.3m(平均潮位差8.2m)ある。そこで、発電と水質改善を兼ね備えた計画として、1999年に潮汐発電所の検討が始まった。韓国政府の目算では潮汐発電所によって、建設前と比較して6倍の海水(1億6000万トン/日)が動く。水質改善が進むはずだ。2003年には発電所の正式な計画が成立、建設が始まり、2011年8月に一部送電に至った。建設費用は3551億ウォン(約350億円)である。

図2 始華湖潮汐発電所の周辺。出典:韓国海洋科学技術院(KIOST)

 図2には道路と一体になった堤防と、その周辺に建設された施設が描かれている。堤防の左側が海(黄海につながる京畿湾)、右側が始華湖だ。図の手前、堤防の一部が大きく楕円形状に広がっている部分は観光ゾーン。観光ゾーンのすぐ先、堤防の右側に白い水が描かれている部分の海面下に始華湖潮汐発電所のタービンが設置されている。

 タービンの出力は1基25.4MW。これが10基あり、合計出力は最大254MW(25万4000kW)。国際エネルギー機関(IEA)が発行した「ANNUAL REPORT 2012」によれば、2011年8月1日から2012年9月30日の期間、発電量は39万6210MWh(3億9621万kWh)に達したという。設備がフル稼働した場合の年間発電量は、55万3000MWhだと予想されている。

 なお、韓国は始華湖以外にも黄海側に複数の潮汐発電所の候補地を選定しており、今後、実証実験をへて商用運転に進む計画だ。始華湖のすぐ北、北朝鮮との海上国境に面している江華島(813MW)や始華湖から南西に50kmほど離れた、忠清南道の瑞山市と泰安郡に挟まれた加露林湾(520MW)などの巨大な計画が発表されている。

 さらに潮汐以外にも、潮流を利用した発電の実証実験を進めている。韓国の南西部、全羅南道の島、珍島(372.12km2)にある珍島潮力発電所(Uldolmok Tidal Power Station)だ。鳴梁海峡の潮流を利用し、2009年3月に出力1MWで運転を開始した。2011年には出力を0.5MW増設しており、韓国政府は2013年末までに出力を90MWへ増強する計画を立てている。

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