「潮の満ち引き」から利益は出るのか?ウイークエンドQuiz(4/5 ページ)

» 2013年12月22日 04時30分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

各国の潮汐発電所の現状と将来は?

 潮汐発電所は歴史は長いものの、小規模な施設が多く、出力が1MWを超える発電所は5つしかない。

 「アンナポリス発電所(Annapolis Royal Generating Station)」(1984年完成、出力20MW)はカナダの大西洋岸、ノバスコシア半島のファンディ湾に位置している。湾の向う側は米国のメーン州だ。最大潮位差が16.4mと世界で最も大きいという地の利を生かした発電所である。

 中国には上海の南、東シナ海に面する「江厦潮汐発電所(Jiangxia Tidal Power Station)」(1980年完成、出力3.2MW、3.9MWまで増強予定)がある。フィンランド国境に近い北極圏のコラ半島に位置するロシアの「キスラヤ潮汐発電所(Kislaya Guba Tidal Power Station)」(1968年完成、出力1.7MW)は、不凍港で有名なムルマンスク都市圏に属し、世界で2番目に古い潮汐発電所でもある。

 出力が1MWを超える今後の計画は2つある。1つは大都市のど真ん中に立ち上げる計画だ。米国ニューヨーク州ニューヨーク市を流れるイースト川沿いを予定する出力1MWの「ルーズルト島潮汐発電所(Roosevelt Island Tidal Energy)」である。ルーズベルト島はマンハッタン島とロングアイランド島に挟まれた長さ約3kmの非常に細長い島。

図5 セバーン川(赤三角)とブリストル海峡をまたぐ堤防(赤丸)、MeyGen tidal stream project(青)の位置

 もう1つは発電所として非常に巨大なプロジェクトだ。英国でウェールズとイングランドの間を分かつブリストル海峡に流れ込む英国最長(354km)の川「セバーン川」を利用する(図5)。ブリストル海峡では潮汐差がランス川と同程度あるため、英国のどの地域よりも潮汐発電に向いた立地なのだという。

 セバーン川の河口から少し下った地点に位置するウェールズの首都カーディフと対岸の間は多少幅が狭くなっているため、ここに長さ18kmの堤防を築く。すると、出力6.5GW(650万kW)の潮汐発電所を設置できる。出力の大きさは世界最大の原子力発電所である「柏崎刈羽原子力発電所」の8割にも相当する計算だ。セバーン川のプロジェクトが完成すれば、英国の年間消費電力量の5%をまかなえる規模になる。

 ただし、このプロジェクトには問題が2つあるという。1つは大規模な自然破壊につながるのではないかという問題、もう1つは経済的な問題だ。大規模な工事が必要になるため、建設費用が300億ポンド(約5兆円、1ポンド170円換算)を超えてしまうのだ。

 なお、英国スコットランドには潮汐ではなく潮流を利用した「MeyGen tidal stream project」がある。図5の上端に示したスコットランド本土の最北部とオークニー諸島の間にあるペントランド海峡は強い潮流で知られており、さまざまなボートレースが開催されている。この海底に潮流を利用するタービン(出力1MW)を多数設置する。2015年にまず9MW、2020年までに86MW、開始後25年で398MW規模にまで持って行く計画だ。MeyGenとは投資会社と発電機メーカーが共同設立したコンソーシアムの名称だ。

日本は潮汐発電に無関心

 ここまで日本の状況については一切触れていなかった。日本には潮汐発電所がないためだ。過去には計画があったものの、実現性は薄い。なぜなら、国内で最も潮汐差が大きい有明海でも十分な出力が期待できないからだ。潮汐差が大きいことで有名な佐賀県太良町の最大潮汐差は4.9mだ。さらに太良町の海岸は直線状であり、立地として適していない。有明海の長崎県側には干拓のために湾の一部を閉じた大規模な堤防があるものの、開門について政治的に解決しにくい状況にあり、現状では潮汐発電所の可能性は見えていない。

 海洋を利用した再生可能エネルギーについて、日本政府は波力、潮流、海洋温度差、海流の4分野と洋上風力発電に重点を置いている。現在はこの5分野について順次実証実験を進めているところだ(関連記事)。潮汐については計画がない。大学などの研究機関や、潮汐プラントの建設・輸出に関心がある企業に任された形だ。

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