水素やアンモニアなどのサプライチェーン構築の促進に向けて、化石燃料の価格差分を支援する「値差支援制度」の導入を検討している。このほど同制度の具体化に向けて、基準価格などの考え方について詳細な方針が示された。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、水素やアンモニア、合成メタン、合成燃料等(以下、水素等)は、代替技術が少なく転換が困難な鉄鋼・化学等のhard to abateセクターやモビリティ分野、発電等のさまざまな分野や用途での活用が期待されている。
これらの脱炭素燃料・原料の社会実装・拡大に向けては、低コスト化等の技術開発を推進するとともに、安定的な需要と供給のためのサプライチェーン構築が必要不可欠とされている。
このため国は、2023年6月に「水素基本戦略」を改定し、官民一体となって水素社会の実現に向けた取組を加速するとして、今後10年程度の間に、官民で7兆円以上(水素・アンモニア)、2.4兆円以上(合成メタン・合成燃料)の投資を行う目標としている。
- 2030年の水素等導入目標300万トンに加え、2040年目標を1,200万トン、2050年目標は2,000万トン程度と設定コスト目標として、現在の100円/Nm3を2030年30円/Nm3、2050年20円/Nm3とする
- 2030年までに国内外における日本関連企業の水電解装置の導入目標を15GW程度と設定。
- サプライチェーン構築・供給インフラ整備に向けた支援制度を整備
- G7で炭素集約度に合意、低炭素水素等への移行
表1.改定「水素基本戦略」のポイント 出典:改定「水素基本戦略」
水素等の新たなサプライチェーンの立ち上げには、多額の初期投資と将来にわたる多額の運営費が必要であり、プロジェクトファイナンスで資金調達を行う場合など、一定程度の収入の予見性が必要とされる。
このため国は、既存の化石燃料との価格差等に着目した、新たな値差支援制度「CfD(Contract for Difference)」の導入を予定している(※現時点、正式な名称は無いため、本稿では値差支援制度と呼ぶ)。
新たな値差支援制度では、基準価格と参照価格の差額を支援対象とすることや、支援期間は原則15年とすること、一定の低炭素基準を設けること、支援対象事業者(案件)の選定は価格だけでなく総合評価とすることなど、すでに制度の骨格は示されている。
資源エネルギー庁の「水素・アンモニア政策小委員会」第11回会合では、本制度具体化のため、総合評価の評価項目や基準価格等の考え方について、詳細な案が示された。
GXの実現に向けて、まずは国内における水素等の製造、供給体制の構築に取り組むことが重要である。しかしながら、当面の間は、国内の再エネ電力が高いこと等から海外からの輸入水素等に比べて高単価と想定されるほか、量の観点でも国内製造水素等だけでは需要を賄えない可能性もある。
このため、値差支援制度では、国内製造及び海外製造・海上輸送の両方を対象として、低炭素水素等の供給事業者(低炭素水素等を製造又は輸入し、供給する事業者)を支援することとする。
ここで、国内製造は水素等の製造に係るコストが支援対象となるが、海外製造については、水素等の製造・海上輸送に係るコストが支援対象となり、このうち国内への供給分に応じて支援が行われる。
また、低炭素水素等の供給事業者は、単に輸送または供給するだけでなく、製造・輸送・供給のサプライチェーンを一定程度コントロールできる地位を有することが条件となる。
なお本制度は、2030年の目標達成(300万トン/年)に必要な、強靭な大規模サプライチェーンの構築を通じた供給コスト低減を目指すものであるため、2030年頃までに水素等の供給を開始する予定であるファーストムーバー事業者が対象となる。
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