売電額を3倍に、老朽化水力の設備更新と買取制度導入で電力供給サービス

宮崎県椎葉村は運転開始後、約60年が経過した村営の水力発電所を更新する。出力を高め、固定価格買取制度(FIT)を適用することで、売電収益を約3倍に高めることができる。設計・施工は水力発電に強みがある日本工営が進める。

» 2014年07月08日 13時30分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
図1 宮崎県椎葉村と発電所の位置

 「発電所の設備を更新し、九州電力への売電契約を固定価格買取制度(FIT)に変えることで、年間の売電額が約3倍に増える見込みだ」(椎葉村役場建設課施設管理グループ)。

 椎葉村(しいばそん)は宮崎県の山間部に位置する(図1)。村営の間柏原(まかやばる)発電所(椎葉村下福良、図2)は、耳川水系越後谷川と村地谷川から取水し、導水管(364m)を使って発電する水力発電所だ。運営開始は1954年と古く、約60年が経過し、設備が老朽化していた。設備の更新が必要だが、費用を回収できるのだろうか。

 ここで役立ったのが固定価格買取制度(FIT)だ。FITは新設の設備を対象とする制度だが、既存設備であっても、新設と見なせるような改修を行った場合、買取対象となる。「従来は単価が9.65円/kWhだったが、今後は30.45円/kWh(税別29円)になる。買取期間は20年間と長いため、改修工事もペイする」(同グループ)*1)

 同村は2013年1月に公募型プロポーザル手続きの告示を公開、設計・施工に関する一括提案(EPC提案)を募集した。告示には「事業資金の総額は、5億円以内とする。また、村は提案する事業に要する費用(5億円以内)の全額を負担する」とあった。実際の事業費はこうだ。「今回の事業では工事調査や測量管理に2331万円、本工事に4億6263万円を投じる」(同グループ)。売電額は1億円弱であるため、単純計算では約5年で費用を回収できる。

*1) 2014年度の水力の買取価格は、200kW以上1000kW未満の場合、新設が29円(税別)、既存設備活用型が21円(税別)。間柏原発電所は新設の扱いになっている。

図2 間柏原(まかやばる)発電所(着工前) 出典:日本工営

水車を更新、落差も伸ばす

 椎葉村が最優秀提案者に特定したのは日本工営だ。設計・施工の範囲は広い*2)。中でも発電所の出力増に効くのが発電機の更新と落差の拡大。

 長らく利用してきた横軸水車を縦軸単輪ペルトン水車に置き換え(図3、図4)、有効落差(最大使用水量時)を180.15mから180.94mに増やすことができたため、発電所の出力が680kWから730kWに増えた。発電機として立軸三相誘導発電機を使う。

*2) 契約内容は大きく5つある。第1に土木構造物工事(注水用取水口補修と支川導水路改修、取水堰(せき)改修、越後谷側の取水堰堤補修、ゲート部改修、導水路トンネル補修、水圧鉄管路補修、水車発電機基礎改修)、第2に建築工事(既設発電所建屋解体、建屋新築)、第3にゲート設備工事(注水用取水口・本取水口、沈砂池、水槽ゲートの更新)、第4に水車発電機・配電盤工事、第5に啓蒙啓発関連設備(撤去水車展示)だ。

図3 既設の横軸水車 出典:日本工営
図4 新設を予定する縦軸単輪ペルトン水車 出典:日本工営

 最大使用水量は0.5m3/秒。常時使用水量が0.133m3/秒と幾分少ないこともあり、設備利用率は52%にとどまるものの、年間発電量は約334万kWhに上る。これは一般家庭の940世帯分に相当する。なお、椎葉村の世帯数は1185だ。

 2014年7月に着工し、2015年3月の運転開始を予定する。「工事期間中の発電所の停止期間は2014年7月から2015年3月だ」(日本工営)。規模の大きな更新工事だが、EPC契約を結ぶことで、発電所の停止期間をなるべく短く抑えることができたのだという。

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