国を挙げて取り組む水素エネルギーの導入に向けて兵庫県の神戸市で実証事業が始まる。液化した水素を運搬・貯蔵する設備を瀬戸内海に浮かぶ空港島に建設して2020年に運転を開始する計画だ。石炭から水素ガスを精製する技術や海上輸送用のタンクも開発してサプライチェーンを構築する。
全国各地で自治体を中心に水素エネルギーの導入プロジェクトが進むなか、神戸市で大規模な技術実証プロジェクトを開始することが決まった。実証事業の場所は神戸市の沖合に浮かぶ「神戸空港島」の北東部で、1万平方メートルの用地に液化水素の運搬・貯蔵設備を建設する(図1)。
水素関連の技術開発に取り組む川崎重工業・岩谷産業・電源開発(J-Power)の3社がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受けて「水素サプライチェーン構築実証事業」を推進する第1弾になる。空港島の一角に海外から運搬船で運んだ液化水素を積み下ろしする荷役装置をはじめ、配管や貯蔵タンクを設けて水素の受入・供給体制を構築する狙いだ。
水素エネルギーを大量に消費する未来の社会を想定すると、CO2(二酸化炭素)を排出しない水素が大量に求められる。有力な方法の1つはオーストラリアなどの資源国で水素を製造して、現地で液化したものを日本まで運搬船で輸送する(図2)。石炭の中でも安価な褐炭から水素を製造してCO2を回収する方法や、再生可能エネルギーから水素を製造する方法もある。
一連の水素サプライチェーンの中で、神戸市の実証プロジェクトでは3つの技術開発に焦点を当てる。第1は褐炭からガスを発生させるガス化炉、第2に液化した水素を大量に運搬する海上輸送タンク、そして第3に液化水素を受入・貯蔵する荷役設備だ(図3)。このうち3番目の荷役設備を空港島に建設することで神戸市と川崎重工業が合意した。
3つの分野で構成する実証事業を3社が分担して推進していく。褐炭ガス化技術をJ-Power、輸送技術を川崎重工業、荷役技術を川崎重工業と岩谷産業が担当する(図4)。3社ともに各分野で実績があり、これまでに蓄積した技術を神戸市のプロジェクトに投入して実用性を検証する考えだ。
それぞれ2019年度までに試運転を開始して、2020年度から実証運転に入る想定になっている。2020年の夏に開催する東京オリンピック・パラリンピックの会場や周辺地域では、水素で走る燃料電池車や燃料電池バスのほか、水素を使って電力と熱を供給する燃料電池システムも大量に導入する予定だ。神戸市でも水素サプライチェーンの実証事業を通じて先進技術を世界にアピールする。
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