2016年4月の電力小売全面自由化により日本の電力市場は大きく変容を遂げようとしている。ただ世界には多くの電力自由化先行国が存在する。先行した国々ではどういう変化が起こったのか。こうした変化を紹介するとともに日本のエネルギー産業における将来像を探る。第3回は、オーストリアの電力自由化後の動向を紹介する。
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オーストリアは、1996年の電力自由化に関する「EU指令」(96/92/EC, 98/30/EC)を、EUの中で5番目に採用した国である。オーストリアの対応は迅速で、工業セクターなど大口顧客に対しては1998年に、一般家庭向けには2001年に電力の自由化を導入した。このように自由化に関しては、フランスの2007年自由化と比べてもかなり早い時期に自由化を行った国なのだが、実は2015年までに実際にエナジー(電気・ガス)会社を切り替えた割合はわずか2.3%に留まっている。
オーストリアにおける発電技術の導入は1880年初頭にさかのぼる。以降、第一次世界大戦までの間に各地域の私企業が発電所を設立していった。結果、1920年代までに各地方に7つの電力会社が存在するに至った。それらの多くは銀行、もしくは個人による出資によって作られたものであった。そしてこのように設立されていった電力会社はそれぞれの送電網を占有し、各地域の市場を独占していた。そしてオーストリアでは、2001年の電力完全自由化までに100社を超える地域規模の電力会社が存在するようになった。それらの多くは小規模で主に、風力、水力により発電を行っていた。
この電力会社の数は電力自由化とともにさらに増えることとなった。オーストリアのエネルギー市場においては、例えばフランスのように、電力会社が国有化されたり、統合されたりするようなことは全くなかった。これはまさにオーストリアが連邦国家であることに大いに由来している。オーストリアでは各州(Länderebeneと呼ばれる)に多くの責任と権限が与えられている。この点においては、同じく連邦共和国であり、1190社の電力会社が存在しているドイツに非常によく似ているといえる(図1)。
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