太陽光発電でイチゴを栽培、世界初の竹バイオマス発電にも挑むエネルギー列島2016年版(35)山口(1/3 ページ)

ユニークな再生可能エネルギーの導入プロジェクトが山口県に数多くある。イチゴを栽培するハウスではフィルム型の太陽光発電シートで暖房用の電力を供給する。竹を燃料に利用する世界初のバイオマス発電所の建設も進行中だ。ダムの水面下にある施設では小水力発電所が運転を開始した。

» 2016年12月20日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 山口県では米をはじめ野菜や果物など多彩な農作物の生産が盛んだ。最近ではイチゴの栽培にも力を入れている。県の農林総合技術センターでは2015年12月から2016年3月まで、太陽光発電を利用した省エネ型のハウスを使ってイチゴの栽培実証に取り組んだ。

 ハウスの屋根にフィルム型の太陽光発電シートを搭載して、日中に発電した電力をハウス内の暖房に利用する(図1)。太陽光発電シートでは最大1.6kW(キロワット)の電力を作ることができる。発電した電力を蓄電池に貯めながら夜間にも供給できる仕組みだ。

図1 イチゴ栽培ハウスの屋根に設置した太陽光発電シート。出典:山口県農林水産部

 蓄電池の電力はイチゴの栽培に欠かせない加温に利用する。イチゴはクラウン部と呼ぶ根茎部分で温度を感知して成長するため、寒い冬の時期にクラウン部を加温すると成長が早まる。電気で発熱するテープ状のヒーターを使って、少ないエネルギーで加温してイチゴの栽培を促進する試みだ(図2)。

図2 イチゴの根茎部を加温するテープヒーター(上)と温度センサー(下)。出典:山口県農林水産部

 通常のハウスでは温風暖房機を使うが、暖房機の代わりにテープヒーターでクラウン部を20℃に加温すると、同等以上の収穫量になることが確認できた。テープヒーターの消費電力はイチゴ1株あたり2W(ワット)で済むため、暖房のコストを半分に減らせる。灯油を使う暖房機に比べて、クリーンな再生可能エネルギーを利用する効果もある。

 日中に太陽光が降り注げば、ハウス内には余剰熱が発生する。この余剰熱の暖気をダクトで吸い込んで蓄熱する仕組みも導入した。イチゴの栽培場所の下に設けた石の層に蓄熱する(図3)。夜になってハウス内の温度が下がると放熱して、イチゴを下から温めることが可能だ。太陽光のエネルギーをイチゴの栽培に最大限に生かせる。

図3 ハウス内の余剰熱を蓄熱する仕組み。出典:山口県農林水産部

 フィルム型の太陽光発電シートは県内各地の農園でも利用中だ。周南市にある観光農園では2016年3月から、ブドウやナシを栽培する農園にサルの侵入を防ぐ目的で導入した。3カ所の農園のうち2カ所にフィルム型の太陽光発電シートを設置して、1カ所には超小型の小水力発電機を園内の水路に設置した(図4)。

図4 ブドウとナシの栽培農園に導入した小水力発電設備(左)、太陽光発電シート(右)。出典:山口県農林水産部

 1枚の太陽光発電シートで270Wの電力を供給できる。一方の超小型の小水力発電機の発電能力は4.8Wと小さい。この程度の電力でも、農園の周囲にめぐらした電気柵でサルの侵入を防ぐことが可能だ。

 山口県では補助金を交付して、小規模な太陽光発電や小水力発電を農村に広めてきた。周南市の導入事例はフィルム型の太陽光発電シートでは5カ所目に、超小型の小水力発電機では7カ所目になる。

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