政府は福島第一原子力発電所の廃炉・賠償・除染に必要な22兆円の資金を確保するため、東京電力に火力発電・原子力発電・送配電事業を他社と統合して競争力を高めるように強く求めた。電力市場の自由化と再生可能エネルギーの導入を推進するうえでも電力会社の再編・統合が欠かせなくなった。
福島第一原子力発電所(略称:1F)の事故に対処するため、3カ月にわたって東京電力の改革案を検討してきた「東京電力改革・1F問題委員会」が12月20日に提言をまとめた(図1)。総額22兆円にのぼる廃炉・賠償・除染費用の資金確保のほかに、東京電力をはじめ電力会社が固執する旧来の事業構造の抜本的な改革を求めた点は注目に値する。
改革案では東京電力に対して、送配電事業と原子力事業の統合を目指すように促した。国内の電力市場が縮小を続ける中で、再生可能エネルギーの導入拡大に向けて送配電ネットワークの増強が不可欠になっている。送配電・原子力ともに最先端の技術と莫大な投資を必要とすることから、「個社での対応のみでは展望は開けない」と指摘した(図2)。
東京電力は火力発電事業では中部電力と合弁で2015年4月に「JERA(ジェラ)」を設立して、燃料調達と火力発電の新設・リプレースを共同で実施している(図3)。残る既存の火力発電の統合については2017年の春に判断することになっているが、改革案では「完全統合は必要不可欠である」と断定した。
もはや東京電力と中部電力の火力発電事業の全体をJERAに統合する方向は決まったと言ってよい。JERAが2030年までに新設・リプレースする予定の火力発電設備1200万kW(キロワット)に加えて、2社を合わせて6700万kWにのぼる既存の火力発電設備を所有する世界最大の火力発電会社が誕生することになる。
JERAはLNG(液化天然ガス)の調達量でも世界最大の規模を誇るほか、海外の発電事業を現在の600万kWから2030年には2000万kWへ3倍以上に拡大する成長戦略を掲げている(図4)。LNGを長期にわたって大量に調達できる能力を備えることで、2017年4月から始まるガスの小売全面自由化でも東京電力と中部電力は価格競争力を発揮してシェアを伸ばせる。
送配電事業と原子力事業もJERAと同じように他の電力会社と統合して競争力を高めることができれば、次のステップとして海外市場に進出できる可能性が開けてくる。東京電力は送配電や原子力発電の事業統合を目指して、他社から共同事業体の提案を受け付ける公募を2017年度に実施する予定だ。
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