一部商品で応札量不足などの課題が指摘されている需給調整市場。電力・ガス取引監視等委員会の第17・18回「制度設計・監視専門会合」では、こうした課題への対応策となる取り組みである揚水発電の随意契約について、現状や効果等について報告と、2026年度の対応について検討が行われた。
2024年4月から需給調整市場の全商品の取引が開始されたが、一次調整力や二次調整力①といった高速商品では応札量不足による調達不足が現在も続いている。揚水発電機は幅広い調整力を供出可能なリソースであるが、2024年度からその運用主体がバランシンググループ(BG)に統一されたことが、この応札不足の原因の一つと考えられている。
この対応策として、一般送配電事業者が随意契約により揚水発電機の運用権を事前に確保し、調整力を調達する取り組みが5つのエリア(北海道・東北・東京・中部・関西)において行われている。
また今年度まで、三次調整力②以外の商品は週間断面で取引が行われてきたが、2026年度以降は全商品が前日取引に移行する。需給調整市場の前日取引はJEPXスポット市場取引後に実施されるため、揚水発電がスポット市場で先取りされ、調整力として十分に活用できないことも懸念されている。
電力・ガス取引監視等委員会の「制度設計・監視専門会合」第17回・第18回では、一般送配電事業者各社やBGにおける揚水発電随意契約の現状や効果等について報告が行われるとともに、2026年度の対応について検討が行われた。
揚水発電を運用するBGは、電力価格の安い時間帯に貯水池上池に水を汲み上げ(ポンプアップ)、ポンプアップに対して発生する揚水ロスも考慮しながら、自社での活用のほか、卸電力市場(JEPX)でのkWh取引や需給調整市場(EPRX)への調整力(ΔkW)供出など、多面的に活用し収益を得ている。
BGは揚水発電の供給力kWh取引に際して、市場価格を予想し、「安値の時間帯でポンプアップ」する買入札と「高値の時間帯で発電」する売入札を組み合わせ、一定の値差を確保する。また、貯水池の水位上限から下限までの運用可能な範囲を最大限に活用しながら、発電電力量と設備利用率を高めることにより、収益の最大化を図っている。
このように、BG自社のみで揚水発電の運用及び貯水量が決まる卸取引とは異なり、調整力では一般送配電事業者(一送)の運用により、貯水量が変化する点が大きな違いである。
需給調整市場において調整力ΔkWとして約定した揚水発電は、実需給断面において「調整力の広域メリットオーダー」や「インバランス量」に基づき、一送により調整力kWhの発動の有無が決定される。
つまり図3パターン①の右図のように、上池貯水量がどのようになるかを、BGは事前に知ること(確定すること)は出来ないこととなる。仮に、調整力kWhが発動されると見込んでポンプアップ計画を作成したにも関わらず、実際には発動されなかった場合、上池は満水のままであるため、BGはポンプアップ出来ない(インバランスが発生する)こととなる。
一送による調整力kWh発動有無のいずれにも対応し得る計画を作成するためには、BGはパターン②のように、あらかじめ水位の運用幅を小さくすることが合理的となる。
この結果として、調整力ΔkW供出量が減少するだけでなく、揚水発電の設備利用率が低下し、社会全体としての損失も生じている。
2026年度から需給調整市場の全商品の前日取引が開始されることにより、これまでの週間取引に比べると天候や需給の見通しが高まり、アセスメント違反や計画不一致のリスクが低減するため、応札量の一定の増加が期待される。ただし、一送が実需給断面で揚水の調整力kWh発動を判断することにより貯水量が変化することはこれまでどおりであるため、揚水による調整力供出の増加は限定的と考えられる。
さらに、2026年度から需給調整市場の全商品が前日取引へ移行するが、需給調整市場の前日市場は現在もJEPXスポット市場の後に開催されている。BGは、まず供給余力の原則全量をスポット市場へ売入札するため、スポット市場で約定しなかった残量のみが需給調整市場に応札可能となる。よって、仮に何の対策も取らない場合、需給調整市場の前日取引への移行により、揚水発電の需給調整市場への応札量は大きく減少する可能性もある。
これらの状況を総合的に判断すると、揚水の随意契約は、2026年度以降も一送が必要とする高速な調整力をあらかじめ確保するための一つの手段として、一定の合理性があると考えられる。
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