翼が円柱、新原理で中小型風車を革新蓄電・発電機器(1/4 ページ)

風車の翼の形は飛行機に似た形状を採る。このような常識を覆す風車「円柱翼風車」が登場した。開発したのは長岡技術科学大学の教授を務める高橋勉氏。中小型風車に向くという。特徴や用途を解説する。

» 2017年01月30日 14時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 「全く新しい原理の風車を開発した。3次元の形状を持つ「縦渦」を駆動力とした円柱翼風車である」。

 長岡技術科学大学 技学研究院 機械創造工学専攻で教授を務める高橋勉氏の主張だ。同氏は、2017年1月12日に東京で開催された新技術説明会*1)において、「革新的風車動力理論『縦渦リニアドライブ』を用いた円柱翼風車・水車」を発表。動作原理や試作品について解説した。

*1) 科学技術振興機構(JST)と国立高等専門学校機構、豊橋技術科学大学、長岡技術科学大学が主催した。

中小型風車で新市場を狙う

 現在、高橋氏は円柱翼風車の原理を解明した段階にある。翼の直径が数センチメートル(cm)から1メートル(m)までの風車も試作した(図1)。

 システムとして最適化した場合、どの程度の効率が得られるのかよく分かっていないものの、高橋氏は一般の中小型風力発電システムと同等の効率を目標に置いている。これは効率20%程度に相当するという。

図1 円柱翼風車の試作例 円柱翼の後方にリングが付いている。水車としての試作も進めている 出典:長岡技術科学大学 高橋勉氏

 円柱翼風車は、従来の中小型風車が適さない立地を狙うことができるという。新用途を生み出し、適用範囲を広げる技術だ。例えば、市街地近郊や、山岳地帯、台風が多い地域などに適用できるとした。

図2 通常の翼と円柱翼の形状の違い 翼の後部のリングが回転力を生み出す 出典:長岡技術科学大学 高橋勉氏

 なぜだろうか。円柱翼風車の特徴から導いた結論だ。円柱翼風車には大きく3つの特徴がある。図1から分かるように翼の断面形状は単純な円だ。さまざまな速さの風を利用できる。後ほど説明するように回転力(トルク)を高めやすい。

 大型から中型の風車の翼(ブレード)は複雑な3次元形状を採る。断面形状は飛行機の翼と似ており、軸からの距離によっても形状が変化する。翼には複雑な力がかかるため、材料の選択や加工が難しい。風車タービンのコストの約5分の1は翼が占めるほどだ(図2)。

 これに対して円柱翼風車の翼の断面形状は円形。翼にかかる力は円周方向が主であるという。このため、セラミックスのような材料を用いても翼を製造できるとした。

 もう1つの利点は、さまざまな強さの風に対応できることだ。通常の風車は弱い風では回転しない。風が強すぎる場合は、機器の破損を防ぐためにブレーキをかけている。つまり風資源を十分に利用できていない。高橋氏によれば、中小型風車では秒速3m(カットイン風速)から15m(カットアウト風速)の風だけを利用可能だ。

 円柱翼風車は秒速1.5m〜2mの風で回り始め*2)、30mまでは風速と回転数が比例することを確認している*3)。利用できる風の強さは、発電機(やギアボックス)の耐久性だけで決まるという主張だ。

*2) 発電機を取り付けていない場合の実験値
*3) 風速に対する回転数の比例関係が良いため(リニアリティが高い)、小型の円柱翼風車はセンサーに適しているという。抗力を利用する小型風車センサーは圧損があるため、正確には比例しない。

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