日本企業が水素市場で勝つための3要素――過去の失敗から何を学び、どう生かすべきか?連載「日本企業が水素社会で勝ち抜くための技術経営戦略」(2)(1/4 ページ)

グローバルに競争が激化する水素市場において、日本企業が採るべき戦略について考察する本連載。第2回となる今回は、蓄電池や太陽光パネル、半導体など、過去のケースを振り返りながら日本企業が水素市場で勝ち抜くためのアプローチを考察する。

» 2025年01月27日 07時00分 公開

 前回は水素に関連する足元の日本市場とグローバル市場の動向、その中における日本企業の位置付けを整理した。第2回となる今回は、蓄電池や半導体など過去の事例を振り返りながら、それを踏まえた上で主に日本の製造業が水素市場で勝ち抜くために必要なアプローチについて考察したい(前回の記事はこちらから)。

日本企業はなぜ国際競争に勝てなかったのか

 冒頭から暗い話で恐縮だが、市場初期において日本が高いシェアを占めたものの、その後、中国を筆頭とする海外勢の追い上げによって、日本の製造業が市場競争に負けるという流れは、ことクリーンエネルギー技術・製品において顕著である。水素という巨大市場を勝機とするためには、これら過去の事例から学び、生かすことが求められる。そこでまずは日本が技術開発に大きく貢献したリチウムイオン電池、太陽光パネル、半導体の経緯をここで振り返りたい。

シェアを失ったリチウムイオン電池市場

 リチウムイオン電池の商用化を世界に先駆けて行ったのは日本だった。1990〜2000年代までは日本が市場シェアの9割近くを占めていたが、その後海外との競争が激化し、現在、車載用電池では中国メーカーによるシェアが5割、韓国が3割弱、日本が1割弱という状況である。

 中国企業がここまで追い上げた背景はさまざまな理由があるが、政策的な後押しがあったという面が大きい。電気自動車に対する補助金や減税措置、タクシーやバス等の商用車や公用車の電動化促進によって、政府主導で中国国内で巨大なEV需要を創出した。さらに製造メーカーにも大型の補助金を与えたことで企業の設備投資が加速し、これらがスケールメリットによるコスト削減につながったという背景がある。

 また社会実装のスピードも目を見張るものがある。中国の電気自動車産業では多くの企業の設備投資が進み、メーカーは激しい競争にさらされた。技術開発、設計、生産にかかるサイクルを大幅に短縮する必要に迫られ、「第一に社会実装、規制は後追い」という流れで、次々とイノベーションが生まれてきた。

 リチウムイオン電池に必須のレアメタルは今や世界で争奪戦になっているが、そうした希少材料を使わないリン酸鉄電池1や、充電時間を従来の10分の1にまで短縮できる交換バッテリー式電気自動車は、既に中国で当たり前のように使われている。電気自動車および蓄電池の普及障壁を解決するためのテクノロジーが、中国において既に商用化フェーズにあることの背景には、加速的なイノベーションがあったものと考える。

中国のEVメーカーのNIO(蔚来汽車)が展開するバッテリー交換式のEVシステム 出典:NIO

 車載用需要のみならず、定置用蓄電池も電力の脱炭素化を背景に今後さらに市場が拡大する見通しだ。結果論ではあるが、中国の動向を間近に捉え、グローバルトレンドを見越した戦略・対策がやはり重要であったと認識する。日本では電池産業の活性化に向けて、国内設備投資の拡大に向けた施策が官民連携で進められており、これからの巻き返しにぜひ期待したい。

1.従来リチウムイオン電池にはニッケル、コバルトといったレアメタルが使われ、これらレアメタルの世界的獲得競争や採掘における人権問題等が昨今問題となっているが、リン酸鉄電池は上記のレアメタルは使わず安価なリン酸鉄を用いるため、定置用では既にLFPが主流となりつつあり、また車載用電池への搭載が欧米でも検討されている。

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