日本企業が水素市場で勝つための3要素――過去の失敗から何を学び、どう生かすべきか?連載「日本企業が水素社会で勝ち抜くための技術経営戦略」(2)(4/4 ページ)

» 2025年01月27日 07時00分 公開
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要素2:グローバルトレンドの俯瞰

 2つ目の要素として挙げたいのが、グローバルトレンドの素早い俯瞰とキャッチアップだ。前述した中国太陽光パネルメーカーの動きを見ても、グローバル市場の動向をいち早く掴む体制は非常に重要であることが分かる。

 こうした体制づくりを検討する際、その方策の一つとしてよく挙がるのが現地拠点の開設だ。しかし、このようなオーガニックグロースの手段では人材の育成や現地リレーションの構築等に一定の時間が必要になるケースも多い。前述の通りスピードが非常に重要な今の世の中においては、既に現地の情勢に詳しく、現地で既に官民における幅広いリレーションを持つローカルパートナーとの協業や、M&Aを行うというのも有用な選択肢といえる。

 M&Aを考える際、良い企業には既に買い手がついてしまっているケースもある。しかし、水素領域においてはこれまで実に多くの企業が出現しており、事業を推進する中で失敗を経験し、資金難に陥ってる企業もいる。当然、吟味する必要はあるが、失敗を経験している企業ほど、“成長の糧”を持っているという可能性もあるため、こういった企業をM&Aのターゲットとすることも一つの有効な戦略ではないだろうか。

要素3:ニーズの追求

 半導体や太陽光の事例にあったように、マーケットニーズを追求することも非常に重要な戦略といえる。「リーン・スタートアップ3」の考え方に大きな影響を与えた米国の起業家スティーブ・ブランク氏が、スタートアップの営業マンへ投げかけた「Your Product is not Their Problem」という言葉は、まさにこの論点を表現している。

 これは自社が手掛ける技術・商品が誰かの問題の解決策になるという「想像」で技術開発をするのではなく、まず顧客を特定し、その顧客が本当に抱えている問題を追及した上で、売る物と売り方を考えることが重要――というメッセージだと筆者は解釈している。顧客のニーズはすぐに変化し、企業の都合に合わせて技術の完成を待ってはくれない。数年先のグローバルマーケットのニーズを予測し、将来のマーケットが求める商品の開発が求められると考える。

 最後に、これら3つの要素を実現するためには政策的支援が必須である。国内需要の創出、海外市場獲得に向けた2国間協力体制の構築、水素オフテイク促進に向けたインセンティブ設計、コストの補填、開発・製造プロセス加速に向けたデジタルツールの導入支援、海外有望人材の獲得に向けたインセンティブ設計等、政府に期待したい施策は多岐にわたる。

 また、個社では解決できず、業界全体・企業間の連携が必要な取り組みもあると考える。欧州においては、技術導入のスピードアップを目指すために、企業間でのデータ連携の可能性についても検討が進められている。China Speedに打ち勝つため、企業を超えた連携も重要である。

3.リーンスタートアップとは、必要最低限の機能を備えた試作品を短期間で開発し、顧客の反応を基に製品・サービスを改善していく経営手法。

国際市場をいかに獲得するか

 いずれも言うは易く行うは難しである。ただ、今までのやり方を続けていても、結果は変わらないのは明白であり、これら3つの要素を是非、技術経営戦略を検討する上でのチャレンジ・テーマとして盛り込んで頂きたい。

 中でもグローバルマーケットの動きは、手段さえ獲得できれば決して解決が難しい問題ではないと考える。第3回では、日本の企業がグローバルトレンドを把握する上での一助となるよう、水素製造ポテンシャルの大きい海外市場における現状を取り上げたい。

著者プロフィール

イー・アール・エム日本株式会社
プリンシパルコンサルタント 谷津 綾乃(たにつ あやの)


世界最大のサステナビリティ専門コンサルティングファームであるERMの日本法人に所属。気候変動に関するテーマを取り扱うチームにおいて、特に水素含むエネルギー電力、カーボンマーケット領域を中心に、戦略策定や新規事業創出、海外進出支援、カーボンクレジット調達等に従事。


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