子供たちと別れて駅へ。学校の敷地の道路寄りに、見事な花壇がある。豊かな街だなあと改めて思う。そういえば、和菓子屋のご主人ほか町の人々は、私が電車で来たというと、わざわざ電車で来てくれたのかとうれしそうな顔をしてくれた。岳南鉄道は地元の人々に愛されてるなと思った。
岳南富士岡駅に到着。機関車はここに並んでいた。パンタグラフを下ろし、任を解かれて休んでいる。車体も窓ガラスもピカピカに磨かれていた。岳南鉄道は貨物列車の運行を続けたかったらしい。しかし、JR貨物は吉原駅から先の引受を廃止。荷主はトラックに切り替えざるを得なかったという。JR貨物が被災して合理化、高速なコンテナ列車輸送に統一する動きがあるという。もういちど、この機関車たちに活躍の時が来るだろうか。
……考え事をするとお腹がすく。ようかんパンを食べて電車を待とう。
終点の岳南江尾駅は工場と倉庫と住宅街。観光するものは特にない。しかし先月の取材の時、この駅に黒い猫がいた。スタイルが良くて、カメラを向けると目線を合わせてくれる。野良のくせにモデルの気品。また会えるかな……と行ってみたが、残念ながら見当たらず。
その代わり、散歩中のワンちゃんたちとすれ違う。匂いを嗅がれる。私も犬を飼っているから、たぶん靴下あたりから犬の臭いがするのだろう。いや、もしかしたら私の加齢臭……? いやいやいや、飼い犬ってことにしておいて。
この駅のそばには電鈴式踏切警報機があり、チンチンチン……という音が出る。最近は電子音の新型が普及しており、今ではとても珍しいという。そうだっけ? と思いながら見に行き、電車の通過を待つ。ああ、そうだ。子供の頃に家の近所で聞いた音だ。懐かしい。
踏切を見物した帰り、大きなスーパーマーケットを見つけたので入ってみた。ご当地アイテムはなかったけれど、缶チューハイが安かったので数本と、デリコーナーのソーセージを購入。旅ではなく、生活の延長みたいだ。なんとなく岳南に住んでいる人のフリをしてみたかった。帰りの東海道本線の電車は暗くなって景色が見えないから、これで車中の楽しみができた。
東海道本線 東京−吉原 片道2520円(東京からは青春18きっぷで日帰り圏)
岳南鉄道1日フリー乗車券 400円
肉食系鉄道ライター(魚介類が苦手)にして、前世からの鉄道好き。生まれて間もなく、近所を走っていた東急池上線の後をついていったという逸話あり。曰く「いつもそばを走ってたから、あれが親だと思った」
日本工学院大学非常勤講師(テキスト商品学)。コンピューター系出版社でゲーム雑誌の広告営業を経験した後、フリーライターとなる。オンライン対戦ゲーム、フリーウェア、PCテクニカルライティングなどデジタル系の記事を専門とし、日本初のEスポーツライターとしてオンライン対戦ゲーム競技を啓蒙する。
趣味は日本全国の鉄道路線探訪で、現在の路線踏破率は約8割。著書は『もっと知ればさらに面白い鉄道雑学256(リイド社)』『知れば知るほどおもしろい鉄道雑学157(リイド社)』『A列車で行こう9 公式ガイドブック(エンターブレイン)』『A列車でいこうDSナビゲーションパック(アートディンク:同梱冊子担当)』など。
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