ボリュームたっぷりのフルコースディナーを終え、キャビンの乗客はどの顔も満足そうだ。みんなすっかりリラックスムードで、前席のシートバックに装備された15.4インチのパーソナルモニターでオンデマンド方式の映画を楽しんでいる人も少なくない。なかには大型のテーブルを引き出し、シート横の電源コンセントにつなげたノートPCを開いて仕事に集中している人も。
私たちは、翌日から予定しているコロラドの観光地や全米一の規模を誇るデンバー国際空港の取材に備え、早めに休むことにした。新作の映画は、帰りのフライトでゆっくり楽しむことにしよう(デンバー国際空港については次回詳しくリポートする予定)。
ところで、ユナイテッド航空の成田/デンバー線に搭載されているビジネスクラスは正式には「ユナイテッド・ビジネスファースト」と呼ばれ、最新のフルフラットベッド型シートが導入されている。ちなみにビジネスファーストとは、ユナイテッド航空と対等合併する前のコンチネンタル航空が「ビジネスクラスの料金でファーストクラス並みのもてなしを」というコンセプトで始めたサービス。そのコンセプトが、合併後の現在も受け継がれている。今回の取材では、新しいシートの座り心地や快適さを実際に体験してみることも重要な目的だった。
照明が落とされたキャビンで、シート横のコントローラーを操作する。シートはボタン操作ひとつで180度水平なベッドに切り替わった。身体を横たえてみると、クッションの具合もちょうどいい。寝返りを打ってみたり、もう一度シートを元の位置に戻したりして機能面をトータルにチェック。それをノートに書き留めておこうと思ったが、よっぽどリラックスできたのか、感想もまとまらないまま眠りに落ちてしまった。
目が覚める。時計に目をやると、離陸して8時間になろうとしていた。不思議と疲れを感じない。いつものフライトとは、明らかに違う。これも、787だから実現した機内環境によるものだろう。
787は機体の多くが炭素繊維複合材で構成されたことで、従来にはない“人に優しい”機内環境を実現した。例えば、旅客機が一番嫌うのは水分だ。目に見えないところで水滴がたまったり結露したりすると、従来の金属製の旅客機ではそれが機体の錆びや腐食につながってしまう。そのため、機内の空気は水分除去装置を通してから送り込み、キャビン内は常にカラカラに渇いた状態にせざるを得なかった。
私自身、長時間フライトでは、ついのどを痛めてしまったことも1度や2度ではない。その点、耐腐食性にも優れる炭素繊維複合材でつくった787は、キャビンの湿度を自在にコントロールできるようになった。シートの背もたれを半分ほど起こして、モニターにフライトマップを映し出す。UA138便はちょうど太平洋横断飛行を終え、米国本土に入ろうとしていた。間もなくシアトルの上空にさしかかる。ここまで来れば、目的地のデンバーまではあと2時間のフライトだ。
到着間際にサービスされる2度目の食事を前に、私はクルーに合図し、朝のコーヒーを注文した。
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにリポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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