――JALは機内食づくりで、それまでずっと「自前主義」を貫いてきましたよね。今回、外部のプロのシェフと初めて手を携えるきっかけになったのは何だったのですか?
田中: 私が企画の仕事に就いた15年前、空の旅というのは、今と違って特別なものでした。機内での食事も特別感があって、地上の食事よりも楽しみという声が多かったんです。ところが、お客さまからは次第に「地上の食事のほうがおいしい」という声が届くようになった。経営破綻の前くらいからですかね。地上の食事はどんどんおいしく、豪華になっているのに、その変化のスピードに会社は追いついていけません。そういう中で、このままずっと自前でやっていていいのかという意見が社内で出始めました。地上のプロのシェフや調理師たちとコラボレートしたほうが、よりおいしいものが完成するのではないか、と。われわれの発想を超えたものができるかもしれない。そんな考えから、シェフとのコラボによる「空の上のレストラン」をコンセプトに改革への取り組みがスタートしました。
――シェフとのコラボといっても、知らない人は「メニューを考えてもらっているだけでしょ」なんて思っているようですが。
田中: 名前だけを借りて食事を出している航空会社も確かにあるようですね。ですが、私たちは違います。一流といわれるシェフのみなさんとスクラムを組み、その人ならではの調理技術などもしっかり取り入れたメニュー開発を進めてきました。
――どんな形でメニューづくりは進んでいくのでしょうか。
田中: まずは「機内食」という制約をいっさい取り払って、自由な発想で新しいメニューを考えていただきます。使用する食材を決め、レシピも書いてもらって。シェフからのその提案をもとに、私たち企画担当とそれを調理して実際の形にしていくケータリング会社のプロの調理師たちで、どうすればそのメニューを機内食として実現できるかを検討していきます。
――かなり長期的な取り組みになるわけですか?
田中: 一つのメニューが完成するまでに、4、5カ月はかかりますね。その間は、試行錯誤の繰り返しです。
――「機内食」という制約は取り払って、と先ほど言われましたが、機内で出す食事では使える食材なども限られてくるのでは?
田中: そうなんです。シェフが目の前で調理し、できた料理をすぐにお客さまにお出しできるなら何の問題もありません。しかし実際は、ケータリング会社で作ったいわば“半完成品”を飛行機に積んで、客室乗務員が機内でそれを温め、盛りつけたものをお客さまのもとに運んでいく。そのときに、初めて完璧な状態にならなければなりません。なので時間が経つと色が変化してしまうような食材は使えなかったり、乗務員がうまく盛りつけられないメニューは機内食に向かないといった“しばり”は確かにあります。ですが、それを言い出すと、何も新しいものが生まれないのではないか。私たちは、シェフの方にはまず制約を取っ払って、ベストなものを自由に提案していただくというのを最初のステップにしました。
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