――そうしてシェフから新メニューが提案されると、いよいよ田中さんたち企画スタッフとケータリング会社の調理師たちの“苦悩の日々”が始まるわけですね(笑)。
田中: 私たちとケータリング会社の調理師だけではありません。秋本さんがおっしゃった“苦悩の日々”には、メニューを考えたシェフも、そして客室乗務員も加わります。その4者での共同作業が次なるステップですね。
――提案されたメニューを上空で再現するのが難しいとなった場合に、使用する食材の見直しやレシピの書き直しといった作業が発生すると思うので、そこにシェフも加わるというのは分かります。でも、客室乗務員がそのプロセスに参加して、彼女たちは何をするのですか?
田中: シェフの思いを、最後の場面でお客さまに届けるのは、現場(機上)でサービスに当たる客室乗務員たちです。シェフがどんなにいい提案をし、ケータリング会社の調理師たちがそのメニューを再現する方法を考えても、機内で最終的に温めや盛りつけをする段階で失敗してしまうと、すべてが台無しになってしまう。初期の頃は盛りつけにこだわりすぎて、客室乗務員に複雑な作業を強いる結果になってしまったことがありました。上空でサービスできる時間は限られていますので、メニュー開発ではスピード感も重要な要素になります。そういう観点からの意見を客室乗務員の側からも出してもらい、チームワークでメニューを完成させていきます。
――そのためには、シェフも機内でのサービスをある程度理解していたほうがいいのでは?
田中: もちろんシェフの方にも、現場の状況を分かっていただくため定期的に飛行機に乗っていただき、ギャレーでの実際の作業などを見てもらうようにしています。機内を再現した地上の訓練用モックアップ施設で食事サービスのシミュレーションをやる際にも、シェフに参加していただくことが少なくありません。
――新しい機内食づくりのプロセスに、客室乗務員が全員参加するというわけではもちろんないですよね。
田中: プロジェクトには、代表して何名かに来てもらっています。サービスに当たる一人ひとりがシェフの思いを共有する、それはとても大事なことですが、全員がシェフに会えるわけでもない。そこで、シェフにはビデオカメラの前で自身の思いを話していただき、その録画を客室乗務員たちが支給されたiPadで閲覧できるようにしました。情熱の共有といいますか、それができたおかげで、客室乗務員一人ひとりの間に「料理の最後の2割、3割は自分たちが完成させるんだ」という意識が芽生えてきたように思います。
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