“激安運賃”で注目のLCC。安全性は本当に大丈夫なのか?:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/4 ページ)
前回のレポートで話題のLCCを取り上げたところ、多くの読者から「そんなに安くしてちゃんと整備はやれているの?」「事故などの心配はないのか?」といった声が届いた。当然の疑問だろう。そこで今回は、LCCの安全面について考察してみたい。
LCCがジャンボ機を飛ばす理由
運航機材に関しては、新しい旅客機の導入を積極的に進めるLCCが少なくない。新品を購入するほうが日々の整備面でもコストがかからず、結果的に収益増につながるという発想だ。各社が中心機材と位置づけているのが、3時間程度の距離を効率よく飛ばせる単通路型のベストセラー小型機、エアバスA320とボーイング737の2機種だ。しかし中には、ジャンボ機(ボーイング747)を飛ばしている新興のLCCもある。
アジアでは最近、インドネシアのジャカルタでライオンエアが、タイのバンコクではオリエントタイが運航するジャンボ機を私は実際に見かけた。
大きい旅客機ほど購入・リース費が高く、運航コストもかかる。400人前後が乗れる機内のシートが半分も埋まらず、ガラガラの状態で飛ばしていては、そのエアラインは利益を出すどころか大赤字に。ひと昔前のジャンボ機は燃費効率も悪いため、近年は大手エアラインでも古いジャンボ機を手放して適当なサイズの新しい旅客機に切り替えるケースが増えた。それなのに、コスト削減を大命題とするLCCがなぜジャンボ機を運航しているのか?
中古機の活用は安全面で疑問が
理由はただ一つ──安く手に入るからにほかならない。もちろん新品の話ではなく、中古機市場での値段が、である。旧タイプの大型機は最新の中型機などに比べて運航コストやメンテナンス費用がかさむため、エアライン各社はまだ十分に活用できる機体を手放し始めているのが現状だ。現役を退いた中古機が世界中から集まるアメリカ・カリフォルニア州のビクタービル空港へ行くと、まだ十分に飛べそうなジャンボ機も目につく。資金力のない新興のLCCは、この中古機市場に着目した。中古機だけに頼って新しい事業をスタートするケースも珍しくない。
もちろん中古だから危険というわけではない。「きちんと整備すれば旅客機は何十年でも使えますよ」と話す整備士もいる。しかしシートや内装に歴史を感じるLCCには、やはり乗客も不安を覚えるだろう。私のこの連載にも多くの写真を提供してくれている航空写真家のチャーリィ古庄氏は、世界中のLCCを乗り歩いている一人。彼はこんなことを言っていた。参考にしていいかもしれない。
「シートが壊れていたり機内が汚いLCCは、機体整備の面で心配が残りますね。以前、飛行機は古くないのに機内がボロボロという航空会社に乗ったことがあります。そこは数カ月後に全員死亡という墜落事故を起こし、全便運航停止になりました」
筆者よりお知らせ
機材の稼働率を上げるための取り組み以外にも、機内食などのサービスの有料化や使用料の安い郊外の“第2空港”の活用など、LCCの格安運賃の背景にはさまざまなカラクリがあります。それらをすべて解き明かした新著『みんなが知りたいLCCの疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンス・アイ新書)を上梓しました。
LCCを利用する場合の注意点や安全面、今後の課題などにも言及しています。興味のある方は本書で疑問を解消し、ぜひご自身でも格安での空の旅に一度はトライしてみてください。アジア各国へ片道1万円を切る値段で行けてしまう時代が、もうすでに始まっているのですから。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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