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コラム
» 2004年07月21日 00時00分 公開

e-biz経営学:オンラインでの購買は、リアルの店舗での購買とどう違うか?

シカゴ地区で事業展開するピーポッド社は、リアルなスーパーマーケットの商品注文をオンラインで受け、宅配するサービスを行っている。提携するスーパーのIDカードによる購買記録とピーポッド社の顧客購入履歴を比較分析すると、これまでEコマースで語られてきた特性と必ずしも一致しなかった。

[水野誠,筑波大学]

 6月末にオランダ・ロッテルダムで、マーケティング・サイエンスの学会が開かれました。約20カ国から400人近いマーケティングの研究者と実務家が集まり、100を越すセッションに分かれて研究が報告されます(1セッションで3〜4の研究)。そのなかで「インターネット」とはっきり謳われたセッションは9つ、全体の1割近くになります。それ以外のセッションで発表されたインターネット関連の研究を含めると、その数はもっと大きくなるでしょう。同じぐらいの数があったのは「CRM」関連で、従来からある「広告」「チャネル」「セールス・プロモーション」といったテーマを上回っています。

 私はすべての研究を聴いたわけではありませんが、その多くがマーケティング・サイエンスの定石を踏んでいるのは間違いないと思います。つまり、(1)インターネット上の行動を一連の選択の結果とみなす、(2)選択の基準(効用)に影響する要因として、マーケターが制御できる変数(サイトのデザイン、表示されている情報、等々)を導入する、(3)そうした基準の個人差を反映した分析を行なう、ということです。前回紹介したバックリンたちの研究はまさに、こうした定石をサイト内の閲覧行動にあてはめた典型例といえます[1]

 インターネット上の購買行動は選択行動そのものですから、こうした定石はより自然に適用できます。選択肢の属性は、ショッピング・サイト上に提示された製品情報です。こうした環境で行なわれる選択がリアルの店舗における選択とどう違うのか(あるいはそう変わらないのか)、それが分かればマーケターはEコマースに相応しいマーケティング戦略を考えることができます。今回は、4年前に発表された研究を紹介することで、こうした問題を考えることにします[2]

 シカゴ地区で事業展開するピーポッド(Peapod)社は、リアルなスーパーマーケットに置かれた製品への注文をオンラインで受け、宅配するというサービスを行っています[3]。ピーポッドのサイトに何がどう表示され、誰が何を注文したかが記録される一方、提携するスーパーでもIDカードを通じて個人レベルの購買が記録されています。いずれのデータも製品ジャンルと地域が同じなので、オンラインとリアルの消費者行動の比較に大変適しています(利用顧客の特性の違いは分析時に調整されます)。

 マーケティング・サイエンスの定石にしたがい、確率的選択モデルを用いて個々の製品属性が消費者の選択にどう影響するかが調べられました。対象となった製品ジャンルは、衣料用液体洗剤、マーガリン、ペーパータオル。分析の結果わかったことは、Eコマースに関してこれまで語られていたことと、必ずしも一致しませんでした。

発見1:オンライン・ショッピングでは、消費者はリアルな店舗におけるほど価格に反応しない。

 インターネット上では製品比較が容易なので、リアルな店舗での買物より価格感度が高くなる…という見方がありますが、今回は逆の結果が得られました。これはピーポッド固有の特徴を反映しているともいえます。つまり、普段よく買う製品が優先的に表示されることや、製品群を自分の注目する属性でソートできるので、非価格的な要素をふだん以上に検討しやすいことを無視できません。

発見2:オンライン・ショッピングでも、消費者がブランドに頼って選択する状況が少なくない。

 インターネットでは多様な情報が容易に入手できるので、ブランド名に頼って選択することがなくなるという議論があります。この研究では、それは製品のタイプ次第であることが示されました。リアルの店舗では選択前に触ったり嗅いだりして重要な属性を知覚できる場合(洗剤やペーパータオル)、それができないオンラインの購買では相対的にブランドへの依存度が強まります。逆に、重要な属性(たとえば栄養分など)を選択前に直接知覚できず、文字情報に頼るしかない製品では(マーガリン)、オンラインのほうがそうした情報を扱いやすいため、ブランドへの依存度が弱まるというわけです。

 この研究はオンライン・ショッピングの特性を、同じ製品・地域のリアルの店舗と比較したという意味で大変興味深いといえます。ただし、分析された食品やトイレタリー製品はオンライン・ショッピングの主流ではなく、むしろ航空券や宿泊先の予約、書籍の購入といったオンラインの利用度が高い場合にどういうことがいえるかが気になります。上述の研究の考え方に立てば、書籍のようにリアルであれば購買前の内容チェックが容易な場合、オンラインでの購買ほどブランドの力、つまり著者や出版社のネームバリューが重要になるはずです。もっとも読者の書評やさわりの部分が読めるようになることで、ブランドの役割が低下する可能性もあります。

 マーケターの立場からは、同じ製品をリアルとオンラインのどちらのチャネルで流すかという意思決定が重要になってきますので、それに役立つような研究も望まれてきます。つまり、需要サイドと供給サイドの両方を視野に入れた研究も、今後の課題といえるでしょう。

参考文献:

[1] Randolph E. Bucklin and Catarina Sismeiro: A Model of Web Site Browsing Behavior Estimated on Clickstream Data, Journal of Marketing Research, August 2003, 249-267.

[2] Alexandru M. Degeratu, Arvind Rangaswamy and Jianan Wu: Consumer Choice Behavior in Online and Traditional Supermarkets: The Effects of Brand Name, Price, and Other Serach Attributes, International Journal of Research in Marketing, Vol. 17, 2003, 55-78.

[3] http://www.peapod.com/

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