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コラム
» 2004年12月21日 20時15分 公開

日本人の個人情報保護意識ITソリューションフロンティア:視点

[村上宣夫,野村総合研究所]

 休日の午後ともなると、何やら勧誘するセールス電話がかかってくる。話の切出しで、なぜか勤務先や出身の大学名が飛び出してくる。通常、「間に合っています」などと言って電話を切ることになる。

 相手は、自分の名前、電話番号、勤務先、出身大学はもちろん、さらに詳細な情報まで知っている。当然、面識などあるわけもない。おそらく、名簿(学校や会社、サークルの関係者、業務上の顧客など)の類を入手したに違いない。名簿は、閲覧されることが前提となっているものである。したがって、それを誰か外部の人間に見られ、個人情報を知られたからといって、驚くこともない。

 しかし、最近は、名簿に限らずさまざまなルートから個人情報が筒抜けになっている。その代表的なものがインターネットである。インターネット上の情報は、必ずしも名簿(一覧表)の形をしているわけではない。ためしに、検索エンジンで、特定の個人名を入れて検索をかけてみていただきたい。そこで検索された情報量に、少なからず驚かされることになる。

 勤務先や所属部署、役職(ネット新聞の記事)はもちろん、出身大学や卒業年(当時所属していたサークルのHP)、大学の研究テーマ(研究室のHP)、どこかの団体での講演記録やセミナーへの参加記録(団体のHP)……。本人が知らない間に、さまざまな情報がネット上にあふれているのである。

 さらに、私たちは、インターネット上で各種ネットサービスに、いくつも会員登録をしている。

 特定情報の提供や、チケットの予約や購入……。特典を受けるためには、必ずといってよいほど会員登録を求められる。私自身、出張時の交通機関や宿泊先の予約、書籍の購入、メールマガジンの購読……と、かなりの数の会員登録をしている。会員登録するにあたって、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、性別、年齢、勤務先などの各種個人情報を入力させられる。

 これらの情報は、何千人、何万人という会員情報として、ネットワーク上のどこかのコンピュータに保存されることになる。決済の伴うショッピングサイトともなれば、決済銀行口座やクレジットカードなどまで含まれている。これらの個人情報は、サービスを享受するための信用保証となっているのである。

 とはいえ、私たちは個人情報の登録に対し、無警戒すぎると言えるかもしれない。すなわち、個人情報の登録は、サービス業者に対するものであり、第三者に見られる危険性をあまり感じていないように思える。かくして、利便性を享受せんがために、詳細に至るまで、情報を登録してしまっている。

 しかし、よくよく考えれば、これは非常に恐ろしいことである。

 情報はネット上にあり、コンピュータで管理されている。特定の業者などが知るだけの閉じたデータベースであるとはいえ、ある目的をもった人にとっては、貴重な個人情報が一箇所に集約されているのだから、これほど魅力的なものもあるまい。

 さらに、企業の社内情報システムとなると、前述のインターネット上の登録情報よりも、その集約度は格段に高い。

 社内情報システムでは、業務の効率化、情報分析、営業推進の目的で、高度に集約された顧客情報データベースが稼動している。たとえば金融機関では、顧客ごとの取引の履歴、現在の資産内容、残高が一元的に統合・集約されたデータベースが構築され、顧客への最適な提案や、問い合わせへの瞬時の対応の実現など、顧客満足度向上の観点からも重要な役割を担っている。利用する側にとっては、ますます便利で有用性が高いものとなっている。

 2005年4月1日からは、個人情報保護法がいよいよ本格的に施行される。セキュリティの強化・徹底の重要性は、あらためて説く必要もない。しかし、セキュリティは、万全の配慮を行ったからといって、それで安心というものでは決してないのである。

 現在、個人情報を取り扱う事業者は、自社のセキュリティポリシーの制定や、保護体制の整備、システムへの監視機能の組み込みや、アクセス権限の制限など、個人情報保護法への対応に余念がない。

 ここで、心にとめておきたいことは、日本(人)型個人情報保護なるものがあるのではなかろうかということである。

 「オレオレ詐欺」など、善良な人々をだます犯罪が多発しているが、日本人には生来、性善説のメンタリティがあるようだ。前述の名簿にしてもインターネット会員登録にしても、企業の統合顧客データベースにしても、本来の有用な目的にしか使われない、悪用されないだろう、という気持ちがある。それゆえ、名簿の他人閲覧に寛容であり、自ら会員登録することにも、あまり不安を感じないのかもしれない。

 高度に集約された個人情報は、きわめて有用である。医療情報のように、切実にその情報を必要としている人も大勢いる。高度に発達している情報社会において、個人情報がもつ意味はますます大きく重要になってきている。漏洩を恐れるあまり、有用性が損なわれるようでは本末転倒であろう。

 こうした日本人のメンタリティを考えれば、わが国において個人情報取扱事業者の責任は大きいと言わざるを得ない。したがって、法制度上、徹底した保護対策は必要である。

 しかし、こうした日本人のメンタリティに付け込もうとする輩は必ず出てくる。今後、制度的対策だけではなく、個人情報に対して高い意識をもった文化の醸成が、求められることになるであろう。

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