イラストレーターで漫画家の江口寿史さんは12月30日、一連の“トレパク騒動”について釈明する文書を自身のXアカウントで公開した。「当たり前のことにも十分な配慮ができていませんでした」と自戒し、これからの活動に生かすとしている。
ことの発端は、ルミネ荻窪で開催されたイベント「中央線文化祭」の告知イラストを依頼された江口さんが、Instagramに流れてきた写真を参考にしたこと。知らないうちにモデルになっていた女性からの指摘で発覚し、SNSで「写真をほぼ丸写しにした“トレパク”作品ではないか」と炎上した。江口さんは「ただちにDMにてご本人に連絡を取って謝罪し、その後弁護士を通じて双方合意の上、和解しております」と説明している。
しかし、これを皮切りに、過去に手がけたZoffやデニーズ、セゾンカードなどのイラストにも雑誌に掲載された写真との類似が指摘され、各社が掲載を停止。その後の調査で「商業雑誌からの無許諾の写真引用」(デニーズ)などが確認された。
なぜ、こんなことになったのか。
江口さんによると、写真を参考に描くことは20代の頃から行っており、雑誌の写真は絵を描くための「資料」と認識していたという。作品集や写真集は「作品」なのでNGだが、雑誌の写真は「情報」なのでOKという考えだったようだ。江口さんは「40年以上も前のおおらかな時代」から価値観や道徳観をアップデートできていなかったと反省している。ただし、個人が撮影したSNS上の写真を使用することについては触れていない。
またトレースについては「私の場合は下描きの最初期の第一段階」であり、それは「あくまで『アタリ』程度のもの」と説明している。アタリとは、レイアウトなどをおおまかに決めるための仮の線のこと。江口さんはアタリの上に下描きを何重にも重ねることで「自分の絵に変換していく」という手法だという。
さらに「専門の弁護士と相談した」と前置きした上で、著作権や肖像権についても触れている。「当該イラストを見た人がご本人であることを特定できない場合には肖像権・パブリシティ権といった権利を侵害することもないようです。(中略)しかし、仮に法的に問題ないとしても、参考にした写真には被写体の方がいて、知らないところで自分の姿や輪郭に似た絵が描かれたら、不安を感じたり、気分を害されたりする方もいる。ある意味、そんな当たり前のことにも十分な配慮ができていませんでした」。なお、一連の騒動では、Zoffなど複数の事例で被写体だった当人から指摘が上がっていた。
そうした経緯もあり、SNSでは「反省の色なしで正当性を主張するとは…」「誠実さよりも稚拙さを感じてしまった」「本当にがっかり」など厳しい意見が相次いでいる。中には「江口寿史の本当に一本芯の入った遅筆さに痺れている」と、漫画連載時の“白いワニ”のエピソードと、騒動から2カ月越しの釈明を揶揄(やゆ)する声もみられた。
江口さんは、今回の件を通じて「自らの表現手法を振り返り考える機会をいただきました」とし、「皆様からいただいた厳しいご意見も真摯に受け止め教訓とし、これからの活動に生かしていきたいと思っています」とイラストレーターとして活動を続けることに意欲をみせている。
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