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少子高齢化社会への備えITソリューションフロンティア:視点

» 2005年02月22日 02時40分 公開
[杉山由高,野村総合研究所]

 団塊の世代の高齢化にともない、日本社会は、2007年以降60歳以上の高齢者人口が急増する。一方で、少子化の流れも深刻で、2015 年に高齢労働力人口が340万人増加するのに対し、若年労働力人口は340万人減少する見通しであるという(厚生労働省職業安定局推計、2002年7月)。

 高齢人口の急増と若年人口の減少が、同時かつきわめて短期間に起こるという事態は、長い日本の歴史においても初めてのことである。かつて経験したことのない就業構造の大規模な地殻変動が、今まさに起こりつつある。このように、本格的な少子高齢化社会はすぐ目の前に来ているのであり、他人事で済ませるわけにはいかなくなってきた。こうした大規模な地殻変動を目の当たりにして、日本の社会はどこまで体制的な準備を整えているだろうか。

 最近は、60歳といっても、老齢と呼ぶのがはばかられるほど元気で活力に満ちた人たちが珍しくない。このような人たちが定年退職を迎えて、明日から会社に行かなくてもよいとなったとき、どのような行動をとるのだろうか。定年を迎えたらとにかく悠々自適、好きなように余生を楽しむことができるという、いろいろと趣味をもった人はどれぐらいいるのだろうか。

 多くのサラリーマンは、人生の大半、会社の発展のために最大のエネルギーを投じ、老後に楽しめる趣味をもつことや、仕事とは直接関係のない地域コミュニティーとの付き合いは、ほとんどできなかったのではないか。しかし、定年後は自分の経験や能力を活かして地域社会に貢献し、それまでのサラリーマン人生では得られなかった満足感、達成感を得たいという人も決して少なくはないだろう。

 ところが、そうした欲求が芽生えても、どこに相談に行けば適切なアドバイスを受けられるか、具体的に頭に浮かぶ人はほとんどいないはずである。地域コミュニティーとどう関わっていけばよいか途方に暮れてしまう人も多いことだろう。

 これまで、政府、自治体はさまざまな試みを繰り返してきたが、高齢者に対する地域社会の支援体制はまだままだ脆弱である。元気で前向きな高齢者、「アクティブシニア」を受け入れる社会基盤整備は、今後の日本社会が抱える大きな課題と言える。

 これに対し、欧米は、高齢化対策がかなり進んでいる。

 米国には、AARP(全米退職者協会)という全国規模のNPO(非営利団体)が存在する。全国で50歳以上の会員3,500万人を擁し、高齢者の声を社会の仕組みに反映すべく、全米で最大規模のロビー団体として活動しているほか、民間企業とのタイアップによる高齢者就業支援も行っている。

 たとえば、世界最大のホームセンターであるホームデポ(Home Depot)社は、AARP のチャリティー組織であるAARPファウンデーションと全米雇用パートナーシップを結び、資格ある高齢者の雇用促進に努めており、2004年2月から6月までの間に1,100人のAARPメンバーを雇用したそうである。ホームデポ社は、こうした実績に満足し、今後さらに多くの高齢者の雇用を行うという。

 ホームデポ社は、大工、配管工、電気工、庭師などのバックグラウンドをもち、腕に自信のある者であれば、採用上年齢不問としている。

 高齢者の多くは、自分の過去の経験を活かせる、やりがいのある仕事ならば、どのような仕事でもかまわないと考えている。このため、ホームデポ社の仕事は、彼らにとって、よい選択肢となっているようである。

 また、高齢者の受け入れ基盤としてさまざまなボランティア活動も重要な役割を果たしている。「シニアコンパニオンプログラム」がその一例である。これは、体の弱い老人や日々の生活に支障があって一日家にいることを余儀なくされている老人のために1対1のサービスを行うものである。2001年には15,500人のシニアコンパニオンが61,000人の高齢者のケアを行ったという実績が残っている。

 このように、欧米では高齢社会に対する試みが、官に限らない民間のNPOやボランティア団体により広範に行われている。

 もっとも、日本においても、こうした取り組みの萌芽がみられないわけではない。60歳を超える退職者に臨時的かつ短期的な就業を斡旋する全国的組織、シルバー人材センターは、厚生労働省ならびに地方自治体の支援のもと全国の大半の市町村に設置され、地域に根ざした活動を行っている。これは、海外でも例がない大規模なもので、高齢者の就業に一定の役割を果たしていることは間違いない。また、先進地域においては、高齢者を対象としたNPOが地域に密着したユニークな活動を展開している。この活動の共通点は、高齢者を弱者とみるのではなく高齢者自身の経験と活力を引き出しながら、自らが社会への貢献活動に積極的に参加するところにある。

 しかしながら、シルバー人材センターが、高齢者の就業ニーズが多様化する今日的な時代にマッチした方向性を見出す必要に迫られているのをはじめ、これらの取り組みだけでは、冒頭で述べた少子高齢化社会の構造的な地殻変動への対策としては不十分と言わざるを得ない。なぜなら、この構造的な地殻変動は、単なる高齢者人口の増加でなく、年金をはじめとした社会保障制度問題や、若年層におけるフリーターやニートの急増など、複雑かつ多面的な問題を惹起しているからである。

 となると、もはや、高齢者、若年者という区分で分断した議論をすること自体が間違いなのかもしれない。すなわち、いま求められていることは、年齢に関係なく、働く意欲のある人なら誰でも仕事が見つけられるという、開かれた社会の実現ではないかと私は思う。

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