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コラム
» 2005年05月23日 12時35分 公開

ITにはもはや戦略的価値はないのかITソリューションフロンティア:視点

[末永守,野村総合研究所]

 このところIT分野のモノ、サービスの価格低下が著しい。システムインテグレーション(以後、SI)もまた例外ではなく、この傾向は強まっている。SIベンダーが低価格で受託したもののプロジェクトが失敗に終わり、いわゆる「赤字プロジェクト」となる事例が増えていることは、決算発表からもみてとれる。また、昨今の動向をみている限りでは、ITに戦略的な価値が見出せなくなってきているユーザー企業が増えてきていることは間違いないようである。

 こうした現状をみて思い出すのは、『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』誌2004年3 月号に掲載されたニコラスG. カー氏の論文「もはやITに戦略的価値はない(原題:IT doesn't matter)」である。この論文は大きな波紋を投げかけ、賛否両論、激しい議論が交わされることとなった。

 もはやITには戦略的価値がないとする見解の主たる論拠は、ITがコモディティ(日用品)化したため、格別、自社に有利な武器とは言えなくなったというものである。

 なるほど、PCは、コモディティ化が確実に進行しており、もはや高価なものでも珍しいものでもなくなった。IBM社がPC部門の売却を発表して世間を驚かせたのは、記憶に新しいところである。

 しかし、ITは、コモディティ化し、戦略的価値を失ってしまったわけでは決してない。すべての企業がITを戦略的に活用できていないというのであれば、コモディティと言って差し支えないだろうが、実際には、ITを戦略的に活用し、成功している企業の事例は枚挙にいとまがない。そうした事例を紹介するIT関連雑誌も数多く出版されている。

 にもかかわらず、なぜITの戦略的価値を疑う議論が出てくるのであろうか。

 第一に、ITは有効であるが、そのコントロールが思うようにできていない企業が多いということではないだろうか。そして、これにはきちんと理由がある。ひと言で言えば、ITが発展途上の技術であることである。

 すなわち、ITの技術革新はいまだ止まってはいない。今後も通信関係の技術は引き続き進歩すると考えられる。この結果、多大なコストをかけ、ある時点において最善と思われたものが、すぐに陳腐化してしまう。

 また、ITが発展途上ゆえ、依然、SIのトラブルは減っていないようである。本来、時間とともにインテグレーション手法が確立され、安定的なシステム構築ができるようになるはずである。しかし、現状をみる限り、そのような改善の方向に向かっているとは言いがたい。構築・管理手法は増えているものの、決定版と呼べる手法ができていないのである。これはおそらく、システムの部品となる要素技術の進歩に、構築技術が追いついていないためであろう。

 第二に、ITが及ぼす直接的効果の測定が難しいということが、こうした状況にさらに輪をかけている。

 これは、ITがビジネスを改革するツールであり、IT以外の改革も宿命的に伴うことに由来している。すなわち、改革を行って、収益が上がったとしても、そのうちの何割がITの貢献によるものかは、間接的な測定によってしか判断されないことが多い。

 IT化を推進すると、効果の測定が困難であるのに、システムの維持・開発コストがどんどん膨らみ、コントロールが難しいものとなっていく。このため、戦略的価値どころか、厄介者であるかのごとく扱われることにもなっている。結果として、コスト抑制を意識しすぎるあまり、有効性から目を背けているのかもしれない。

 第三に、ITベンダーが次から次へと製品を市場に出していくことで、ユーザーに誤解を与えていることも否めない。ユーザーはベンダーの製品やサービス、あるいはベンダーそのものの違いを認識・評価できなくなってしまっており、多様化したITの利用方法のなかから、適切な選択を行うことがますます困難になってきているように思える。

 ビジネスや業務を改革し続けない限り、企業の競争力は徐々に低下してしまう。ITは、コントロールが困難なものであろうと、改革には不可欠なものと言えるであろう。ITのコントロールへ向けた粘り強い取り組みが、企業の競争力を支えることになるのである。

 IT単体のコントロールには、さまざまな方法がある。たとえば、CEO(最高経営責任者)がITについてもっと勉強するか、あるいはCEOはその前段階としてCIO(最高情報責任者)を経験するものとし、IT関連の意思決定の強化を図るという方法がある。また、CIOの権限を強化するか、CIOが機能する仕組みを作ることにより、効率的でスムーズなシステム運営を図るという方法もある。さらに、アウトソーサーを活用して、外部の専門家に任せてしまうというのもひとつの方法かもしれない。

 しかし、企業全体としてITをコントロールすることは、ITをいかに経営上の意思決定と強く連携させるかということであるから、IT以外のさまざまな問題にもからみ、簡単に

 どの方法をとるか決定できるものではない。いずれの方法をとるにせよ、ITをコントロールするというユーザー企業全体の強い意思は、絶対条件となる。すなわち、ITはコモディティだから安ければよい、あるいは、CIOやシステム部門に任せればよい、などと考えるようでは、結果はおぼつかない。

 全員がITを意識し、考え続けるという文化を創っていくという、意識面での改革の取り組みに期待したいものである。

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