ITmedia NEWS >

出口の見えない「上り拡張ADSL」の取り扱い(2/3 ページ)

» 2004年06月18日 15時35分 公開
[佐藤晃洋,ITmedia]

 5月28日の事業者間協議では、「暫定合意はあくまで暫定のため、JJ100.01の改版作業は並行して続行し、11月30日までに改版作業を完了して、その後は新しいJJ100.01・第3版による運用を行う」ということが合意されたのだが、問題は「果たして11月30日までに改版作業が完了しなかった場合どうなるのか」という点だ。

 何しろ、同SWGの参加者には“前科”があるだけに、簡単にはその言うことが信じられない。今年2月の事業者間協議では「4月15日までにJJ100.01の改版内容に大筋で合意し、6月10日までに改版作業を完了する」ことが合意されていたにもかかわらず、実際にはその合意は全く守られなかったからだ。

 結局、今回の会合でも改版作業が完了するどころか大筋の合意すら得られていないし、そのあおりを食う形で、EU方式以外のものも含めて新規のDSL方式の導入は全くストップしてしまっている。今の調子では、これと同じことを11月30日に繰り返す可能性が少なからずあるだ。それだけに、あらかじめ「作業が完了しなかった場合」の取り扱いを決めておきたいというのは当然のことだろう。

 この点をめぐっても、参加者の間では「そうなった場合は、増設や移転も含めたEU方式の新規導入を一切停止すべき」とする意見と「暫定合意の運用を延長すべき」とする意見が対立。

 議長やイーアクセスらは「もし本当にEU方式が他の回線に重大な影響を与えるのであれば、その際は今回の合意に関係なく導入を停止せざるを得ないのだから、この点を議論すること自体あまり意味がない」「将来サービスの提供が停止する可能性のある方式の導入を総務省が認めるとは思えない」といった理由で後者の意見を主張したものの、SBBやアッカらは前者の意見を譲らず、妥協点は見出せなかった。

表決が行われなかった理由は「手続き論」と「時間的猶予」

 さて、このように対立点がいくつか残っていたことは事実だが、だからといって表決を行えないほど意見が百出していたかというと、そういうわけではなく、表決に持ち込むための案の集約も、実際には同会合で行われていた。

 ではなぜ表決は行われず、DSL専門委員会に表決が持ち越しになってしまったのか。これは一言で言ってしまえば「手続き論」と「時間的猶予」の問題だ。

 前回会合で議長が「次回会合では表決による決着もあり得る」と強行採決をほのめかす発言をしていた段階から、SBBは「本SWGは、上位委員会であるDSL専門委員会において『合議制で運営する』ことに合意しており、いくらTTCの会議運営方法に表決手続きが定められていても、それが専門委員会の決定を覆すとは思えない」と疑義を表明していた。本会合でSBBは「TTCの会議運営方法は、あくまで専門委員会の運営方法を定めた規則であり、SWGの運営までをも拘束するものではない」として、本SWGで表決を行うことはできないと主張。

 これに対しイーアクセスは「会議運営方法によれば、専門委員会での表決の場合は表決対象となる議案の審議に1/2以上参加している会員のみが投票権を持つことになっているが、その建前論で行けば専門委員会では今回の問題は1回も審議されていないことから、誰も投票権を持たないことになってしまう」「元々本SWGは、議長に学識経験者を迎えたいという理由からSWGになった(専門委員会の場合はTTC会員しか委員長になれない)ものの、それ以外の運営は専門委員会に準じることになっていたはず」と反論し、本SWGでの表決を主張した。

 ただJANISやアッカが「この場で即態度を表明することはできず、検討のための時間が欲しい」として表決の1カ月延期を希望したことから、結局イーアクセス側が折れる形で2週間の猶予期間を設け、その間に合意形成を目指すことでこの場は合意。さらにSBBの意見を容れ、合意形成ができなかった場合には、DSL専門委員会で表決を行うことが合意されたのだった。

DSL専門委員会でも結論が出ない可能性も

 議論の舞台は今度はDSL専門委員会に移ることになるわけだが、実際のところ合意形成の可能性は低いと見らる。このまま行くと25日には同委員会において表決が行われることになる可能性が高い。しかし本当にこの表決によって結論が出るのかといえば、それを疑問視する声も少なくない。

 その理由は、やはりTTCの会議運営方法にある。同規則においては表決が必要になるケースを「ドキュメントの決定又は制定の場合」とそれ以外とに分けており、特に前者の場合は表2の通り、ドキュメントの種類によって表決で必要な賛成票の数が3種類に分かれている。果たして今回の表決の対象となる暫定合意がこの中のどれに含まれるのか、現段階ではその点が明確ではないのだ。

分類 定義 解説 決定・制定に必要な票数
標準案 確定した技術仕様 ―― 有効票の4/5以上
仕様書 暫定的な技術仕様 技術仕様は一部変更・追加される可能性はあるが、全体としては仕様が FIXできたことから制定するもの 有効票の2/3以上
技術書 未熟な技術仕様 技術仕様は今後変更・追加され可能性が多数あるものの、全体としてまとめる区切りがついたことから制定するもの 有効票の過半数
その他 ―― ドキュメントの決定又は制定以外の場合 有効票の過半数
 表2 TTCのドキュメント種類と表決に必要な賛成票(TTCのドキュメント体系並びに会議運営方法を元に筆者が作成)

 TTCのドキュメント体系に関する文書を素直に読む限りでは、今回の暫定合意はこの中の「仕様書」に含まれるのではないかと筆者には思われる。そうなると、この表によれば有効票の2/3以上の賛成が必要ということになるが、果たしてSBB陣営・イーアクセス陣営のどちらも2/3以上の賛成を獲得できるかといえば、今のところ非常に微妙と言わざるを得ない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.