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私的録音・録画補償金制度では誰も幸せになれない(1/2 ページ)

» 2005年05月16日 12時47分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 もう先月の話になってしまって恐縮だが、著作権法見直しの検討を行なっている文化庁の文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会の第3回審議が、4月28日に行われた。「iPodからも金を取れ」という刺激的なタイトルにつられてこのニュースを読んだ方も多いことだろう。今更この話か、と思われるかもしれないが、しかしこの議論は風化させてはいけない問題である。

 第3回審議では、iPodを始めとする固定メディア型の音楽プレーヤーや、HDDビデオレコーダー、またはPCのHDDも私的録音補償金制度の対象とすべき、との意見書が提出された。連名で提出したのは、日本音楽著作権協会、日本芸能実演家団体協議会、日本レコード協会、日本音楽事業者協会、音楽出版社協会、音楽製作者連盟、音楽作家団体協議会という、音楽業界の団体である。

 このうち、実際に補償金の分配を受けるのは前から3団体、つまりJASRAC、芸団協、日本レコード協会だ。しかし他の団体も、実際の加入者はこの前者3団体とかなりの率で被っているか、綿密な関連があるだろうことは容易に想像できる。

iPodから金を取るべきか

 現行の補償金制度を理解する上でいい資料があるので、紹介しておこう。この資料は、同小委員会で平成14年11月に配布されたものである。

 補償金といえばMDやCD-Rなどのメディアに含まれるということは、パッケージなどにも記されているので、多くの方がご存じだろう。だが実際には、MDレコーダーなどの機器の価格にも含まれていることは、普段あまり意識することがない。だがちゃんと補償金をわれわれは払っているのである。

 例えばNetMDのユーザーが音楽をPCからMDに転送するのも、iPodユーザーが転送するのも、行為としては何も変わらない。相手がリムーバブルメディアか、固定メディアかの違いだけである。それだけの違いによって、本体というハードウェアに補償金の有無が生じているわけである。

 もちろん、MDが音楽プレーヤーの中心であった頃は、iPodなどの音楽プレーヤーなどは無視できただろう。だがすでに昨年の段階で、MDは出荷台数において、HDD音楽プレーヤーに抜かれてしまっている。メディアを消費しないこれらのプレーヤーが中心になってくるのであれば、当然補償金は目減りするわけである。

 最近のiPodは写真なども転送できるようになって、フォトストレージとしての側面も出てきてはいるが、基本的には音楽専用プレーヤーと呼べる。これが補償金制度の対象になるのは、純粋に法的な解釈だけで見れば、ある程度の妥当性はある。しかしPCのHDDや外付けHDDにまで補償金をとなると、「ちょっと待てゴルァ」という話になる。

 汎用性のある記録デバイスまで許してしまったら、デジタルデータが記録できるあらゆる物がその対象と拡大解釈されるのは時間の問題だ。写真を撮るためにメモリーカードを買っても、便利だからとUSBメモリを買っても、「あーそれは音楽も記録できるからダメー」と補償金を取られることになるだろう。ユーザーが実際にどういう用途に使うかに関与せず、「使うかもしれない」ことを前提に補償金がかけられるのは、あまりにも丼勘定が過ぎる。

補償金は少ないのか

 権利団体への実入りの減少が、このような動きを生んだことは間違いない。では補償金というのは、実際にそんなに実入りが少ないものなのか。前回の小委員会の席上では、日本メディア工業会が「(著作権者またはユーザーに)返還すべき(補償金の)金額が小さく、(連絡用のハガキ代や振り込み費用を考えると)返還するだけで赤字になってしてしまうこともあり、死文化している側面は否めない」と発言したことが伝えられている(編集部注:指摘を頂き、発言者や発言内容の一部を修正いたしました)。

 ちなみに2003年度の私的録音補償金は、約23億3920万円であったそうである。2004年度の資料はまだ見つかっていないが、まあいくら減ったとはいえ、億で二ケタ規模であるとは思う。この金額が、SARAHに入ってくるわけである。著作権者に行き着くまでには小割されてしまうということなのだろうが、各団体に分配される金額は、そんなに小さいかなぁ。

 そこで頭をもたげてくるのが、「どんな分配してるのか」ということである。下図は私的録音補償金の流れを示した図で、これに公表されている分配率を記入してみた。分配を受ける3団体は、JASRACが若干多いものの、概ね三分の一ずつとなっている。そんなに少なくないように見えるのだが、この仕組みの図には不透明な点がある。

私的録音補償金の流れと分配率(文化庁サイトより)
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