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ネット広告の急伸をどう評価するか?西正(2/2 ページ)

» 2005年12月15日 17時13分 公開
[西正,ITmedia]
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 もちろん、ネット広告の歴史は始まったばかりであるだけに、新たな技術や手法が開発されれば地図が塗り変わる可能性も否定できない。しかし、現時点では未だそういう段階にないと思われる。

ビジネスモデルとしての広告収入

 ネット広告費がラジオ広告費を抜いたと聞けば、ネットを広告媒体としてビジネスモデルを検討する動きが見られるようになることは予想されるところであった。昨今は、そうした新たなビジネスモデルにチャレンジするケースも見られ始めており、その動向や効果の有無に注目している人も多い。

 USENの「GYaO」やソフトバンクの「TVBank(仮称)」のように、ネット上での動画配信を広告収入によって行うサービスが出始めた。コンテンツを見ようとすると、CMから始まり、CMはスキップができなくしてある。コンテンツの途中にもCMが入るが、やはりスキップはできない。コンテンツの早送りや巻き戻しが出来ても、CMについてはできないようになっている。

 VOD形式なので“タイムシフト”という概念は持ち込まれないだけに、コンテンツを見る際は、CMも欠かさず見なければいけないのだ。というと、テレビ以上にCMを見せる力があるように思えるが、最近はいくらでも新しい見方を開発してしまう人が多い。PC上では同時に複数のサイトを開いておくことができる。音声を流しながら、CMの間だけ他のサイトに取り組んでいてCMを見ないようにするスタイルも出始めていると聞く。音声だけは残るという強みはある。「TVBank(仮称)」は有料サービスの開始も近いと言われている。

 新たな取組みについては、その成否を早い段階で予想しても意味がないと思われるので、ビジネスモデルとして本当に成り立つかどうかは、もう少し時間をおいてから判断するべきだろう。気になるのは、広告収入でのビジネスモデルに精通している民放キー局各社が、テレビ番組のネット配信については有料モデルで行っていくスタンスを取っていることだ。その一方で、電通と組んでの広告モデルの新会社設立の報も流れるなど、こちらもビジネスモデルの確立には至っていないようである。

 テレビ広告市場に影響がでないようにしたいとの思いだろうと単純に決め付けるのは早計かもしれない。広告モデルで成り立つだけのユーザー数に達するまでは、有料で行こうという判断であるとも考えられる。いずれにしても、動画のネット配信についてのビジネスモデルで、USENやソフトバンクの考え方と民放キー局各社の考え方が異なるというのも興味深い現象ではある。今後の行方について、引き続き注視していく価値は十分にあると言えるだろう。

 ネット広告についてのビジネスモデルを考える際に、もう1つ注目される大きな点は、実際に広告が見られたかどうかの数値情報は、明らかにネットの方が採りやすいことである。ネットの場合はアクセスログの数を見れば明らかだ。

 一方の新聞やテレビはと言えば、広告費の算定に使われる指標はあいまいなままである。新聞の発行部数は明らかになっても実売部数は推測の域を出ないし、テレビの視聴率も「テレビの前に猫がいるだけでもカウントされる」などと言われる。

 一般常識として言われているところでは、スポンサー企業は精緻な数字を欲しているが、それが出てこないことに大きな不満を持っているということだ。

 しかし、新聞やテレビについても、少しでも精緻な数字を取ろうと思えば、それなりの改善策はあったにもかかわらず、実態として現状維持のスタンスが採り続けてこられた。ネット広告の方は間違いなく精緻な数字を取りやすいが、これまでのスポンサー企業のスタンスについて真意はどこにあるのかも、併せて検討しておくべきであろうと思われる。

 スポンサー企業の広告担当の立場からすると、精緻な数字が得られ、それに対しての見返りとしての広告費を支払うのはいいが、そこまで可能になるならば、それ相応の広告効果が得られたかどうかの検証作業が社内で求められることになろう。広告費として支払った金額の多寡に応じて、その会社の商品・サービスはどれだけ売れたのかということである。実際には、そちらの検証も難しいのである。

 よく使われるのが、風邪薬の例えである。A地区では巨額の広告費を投入して風邪薬の広告を大々的に行った。B地区では風邪薬の広告は一切行わなかった。しかし、結果を見たら、風邪薬が売れたのは何の広告もしなかったB地区の方であった。その理由は、B地区では風邪が流行しており、A地区はそうでなかったからだという話である。単純な笑い話のようだが、広告効果の検証の難しさをよく表している。

 そもそも、広告という作業については、費用対効果の検証責任を誰が負うのかということが必ず伴う。費用を払っている方が責任を問われるよりは、受け取っている側から精緻な数字が出てこない責任を問う方が、日本的商慣習からすればリーズナブルである。

 ネット広告についてのビジネスモデルを構築していこうとするならば、既存のメディアが包み込んでいたパンドラの箱を開けたところで、それが本当のニーズに応じたものかということも念頭に置いておくべきであろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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