コラム
» 2006年10月20日 09時30分 UPDATE

ネットベンチャー3.0【第12回】:検索エンジンが「ユーザーのその日の気分」を知る方法(下) (1/2)

佐々木俊尚氏が日本のベンチャーにおけるWeb2.0ビジネス最前線を描く連載企画。Googleがまだ検索に利用していない“人間関係”や“心理学的分析”アプローチで新サービスを展開しようとしている2つの日本のベンチャーを取り上げる。

[佐々木俊尚,ITmedia]

検索キーワードには人間関係が反映される

 ソーシャルニュースサイト「newsing」を運営するマイネットジャパン社長の上原仁さんは言う。「自分がつながっている友人や家族、同僚ががいたら、その人に影響されて自分の興味もどんどん移っていくということは多い。単なるカスタマイズやパーソナライズではなく、そうした人間関係をソーシャルニュースに持ち込めないかと思うんですよね」

 この連載の第10回で、「外界からの影響や、本人の内なる精神的志向などをパラメーター化し、情報収集の精度を上げる方法はないのだろうか?」と書いた。人が情報収集をする際、何を求めているのかということを探ろうとするとき、過去の履歴以外に影響されるものは2つある。ここに書いたように、「外界からの影響」と「本人の内なる精神的志向」だ。

 たとえば、経済ニュースを気にしている会社員がいるとする。彼は日ごろはインターネットのニュースサイトで、ビジネス系の記事ばかりを読んでいる。しかし必ずしも、いつも経済ばかりを気にしているわけではない。北朝鮮が核実験を行った日にはこのニュースが気になり、ニュースサイトで北朝鮮関連の記事を拾い読みしているかもしれない。あるいはパリーグで日本ハムが優勝したという話を街中の電光掲示板ニュースで知って、「へー、25年ぶりの優勝なのか」と久しぶりにスポーツニュースを読んでみる気になったかもしれない。

 つまりこの会社員は、世間の動向に影響を受けて、ニュースの抽出や検索の行動が変動している。このような影響を考慮に入れる仕組みは、現在のGoogleには存在しない。

 また、人間関係から影響を受けるケースもある。たとえば、日ごろはまったく格闘技に興味のなかった若者が、大学の同級生から「亀田の試合は面白いよ、ぜひ見てみなよ」と勧められ、ボクシングのニュースを読んでみるようなケースがある。また日ごろは経済ニュースしか読まない会社員が、妻の好みに影響されることもある。その妻が「子育て」に関する情報を良く検索しているという行動パターンがあるとすると、その妻の検索動向に引きずられ、会社員本人も子育て関連の記事を読むようになるかもしれない。

 実は会社員は夜帰宅して、ダイニングテーブルで二人で差し向かって夕食を取っている時に、「ねえ、あの子のお受験なんだけど、面白い幼児向けの教育カリキュラムがあるってテレビで言ってたの。ちょっと調べてみてよ」と妻から言われたのかもしれない。それで彼は自室のパソコンに向かい、Internet Explorerを開いて妻の言っていた新カリキュラムのキーワードでGoogle検索した。そのキーワードをなぜ彼がその瞬間に使ったのかは、Googleからは理解できない。

 仮に会社員がインターネットをさまよって、ネットサーフィンしているうちにそのキーワードを知ったのであれば、なぜ彼がそのキーワードを使ったのかは把握できる。しかしインターネットとは切り離されたリアルの空間で、妻に口頭で言われて検索するのであれば、そのキーワードが出現した理由をGoogleは認識しようがないのだ。

 上原さんは言う。「わたしたちの生きている社会は、ごく小さなユニットに分解できる。そのユニットでどのような会話が交わされて、どのような興味対象が話題になっているかというのは、ネットの情報収集を高めていく上でとても重要な要素だと思うんです。個人それぞれにそれぞれのユニットがあり、ある個人にとって必要な情報は、その小さなユニットに依存している部分がある」

 つまり上原さんは、こう考えている――Web2.0で言う「ソーシャル」という言葉は、単に「社会」を直訳しただけではない。ある個人の持っている、コンテキスト(社会的背景)や人間関係を意味しているのだ。

メタRSSリーダーへの期待

 インターネットは、今や巨大な情報の海となっている。Web2.0によって個人や企業、情報、コンテンツ、商品などがすべてフラットな土俵の中に投げ込まれ、それらのクラスター同士がつながる中から、集合知や新たな出会いによるビジネスが出現していく。多様性を生かしながらも、すべての情報を同じ地平で見せていくというのが、データベース的観点から見たWeb2.0の世界である。

 その情報の海から、どのように必要な情報をすくい上げていくのかということが、Web2.0の集合知ビジネスでは今や最も重要な課題となっている。要するに、玉石混淆から「玉」を拾い集めるシステムである。当初はRSSリーダーが、玉を拾い集めるツールとして注目されたこともあった。しかしある個人の関心分野が広く、さまざななブログに注目してそれらのRSSフィードをどんどん集めてしまうと、「玉」であるはずのエントリーがあまりにも多くなってしまい、読めなくなってしまう。数百のRSSフィードを登録したRSSリーダーでは、1日に読まなければならない記事が1000近くにも達してしまい、その中には興味のない記事もたくさん含まれている。好きなブログやニュースサイトだからと言って、それらが提供している記事がすべて自分の興味対象になっているわけではないのだ。そうなると結局、RSSリーダーでは「玉収集システム」の役割を果たさなくなってしまう。

 そうなると、メタ「RSSリーダー」が必要になってくる。RSSリーダーの中から、自分の興味のある記事だけをさらに絞って拾い集める仕組みがほしくなる。またはてなブックマークのようなソーシャルニュースサイトでも、「メタはてブ」が期待されるようになるかもしれない。はてブの人気エントリーの中から、自分の興味範囲に応じたエントリーだけを抽出するシステムだ。

 たとえば、妻が子育てに強い興味を持っていて、ソーシャルブックマークで子育て関連の記事を特に読んでいる。家でご飯を食べているときに、そうした話題が頻繁に出る。あるいは会社の仲のいい同僚が、最近はYouTubeに凝っていて、会社の会議などでさかんにYouTubeの話題を口にする。そうやって周囲の人間から聞かされていると、子育てやYouTubeの話題を書いた記事を優先して読むようになる。そうした関係性を加味して、ソーシャルブックマークやGoogle検索結果から記事を利用者に合わせて抽出するような仕組みが出てこれば、それは素晴らしいパーソナライゼーションとなる。

 そんなものは今のところは存在していないが、しかしここにWeb2.0のソーシャルメディアの未来があるのは間違いないだろう。上原さんはこう説くのである。「こうした人間関係を含めたソーシャライゼーションが、今後のWeb2.0の進展では非常に重要な意味を持ってくると思う。そしてそうした人間関係に基づいた検索行動は、マーケティングの考え方さえ根本から変えてしまう可能性があると思います」

 マイネットジャパンはこの考えを具現化したmy newsing機能を、年内にリリースする計画だ。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading

ピックアップコンテンツ

- PR -

マーケット解説

- PR -