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» 2007年02月23日 11時30分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:【第6回】見えない物質を観測する 〜宇宙を形作る暗黒物質

作家/脚本家/翻訳家/批評家でアニメのSF設定も手がける堺三保氏に、気になる科学の話題をピックアップして独自の視点で語っていただく連載コラムです。日本のすばる望遠鏡も協力して、宇宙空間に広がる暗黒物質の立体的構造が観測された、という話題を取り上げます。

[堺三保,ITmedia]

 日米欧の国際チームが、世界で初めて宇宙空間に広がる「暗黒物質」の立体的な構造を観測したというニュースが、1月に報道された。

 これは、まず宇宙空間にあるアメリカのハッブル宇宙望遠鏡で、600回以上観測を繰り返して暗黒物質の分布を特定、その上で、ハワイにある日本のすばる望遠鏡(こちらはさまざまな波長の光で観測が可能)を使って、様々な銀河や暗黒物質の、地球からの距離を精密に計算して、奥行き約80億光年、縦横が最長で約2.7億光年という大きさの空間における暗黒物質の分布を、三次元的な立体構造として解明したというもの。

 といっても、それだけでは何がすごいのかは、普通はあんまり伝わりませんわな。まず暗黒物質、もしくは英語で“Dark Matter(ダークマター)”と呼ばれているものが、何なのかってところから話を始めないといけないよね。

 ごくごく簡単に書いてしまうと、暗黒物質とはその名の通り、自力で光らないし、光を反射しないため、光学的には直接観測できない星間物質のこと。この「目には見えないもの」があるかもしれないという話が出てきたのは、1980年代に「銀河の回転曲線問題」という問題が明らかになってから。

 思いっきりかいつまんで単純化して言っちゃうと、銀河の回転速度を測定してみたら、その銀河の「目に見える」(つまりは電磁波を放射もしくは吸収している)物質の分布から想定される回転速度とは全然違う結果が出ちゃったのだ。予測では、銀河の外側にいけばいくほど回転速度が落ちると思われてたんだけど、実際には銀河のかなり外側でも回転速度が落ちなくて、全体に平坦な速度分布をしていたことが分かったのだ。

イラスト

 で、計算と実測とを合わせるには、その銀河内に想定されている(つまりは、観測されている物質)以上の質量が存在していないといけなかった。つまり、「目に見えないが重さを持った物質」が銀河内に存在していると仮定すれば、理論と実測とが一致してくれるということで、そういう「暗黒物質」があるんじゃないかという説が唱えられるようになったんですな。

 一方、そういう「あるかないか分からないもの」を仮定するより、力学の法則を修正することで、「銀河の回転局面問題」を説明してみようという説(修正ニュートン力学というんだそうな)を唱えてる学者たちもいたりして、なかなか決着がつかなかったのだ。でも、今回の観測は、もしかしたらその2派の対立に結論をつけてくれるかもしれないのである。

 今回の研究チームは、いわゆる「重力レンズ」効果に着目して暗黒物質の観測をおこなっている。重力レンズというのは、強い重力がある周辺では、空間が歪められ、まるでレンズの中を通ったかのように、光の進路さえも曲がってしまうという現象だ。要は、重いものがあるそばでは光は曲がって進んじゃうということ。

 そこで、形が不自然に歪んで見える銀河系を観測して、その近辺で重力レンズ効果が起こっていることを確かめ、それによって、目には見えない暗黒物質がその銀河のそばに存在していることを逆算して、暗黒物質の分布の立体図を作り出したのだ。先に書いた「修正ニュートン力学」じゃ、この重力レンズ効果の説明はつかないんで、今回の観測が正しいとなれば、暗黒物質が実在することが立証されることになる。

 さらに言えば、今回の観測によると、暗黒物質の内部や周辺に、銀河が集まっているらしい。

 銀河は宇宙空間に一様に分布せず、無数の泡を形作るように散らばっている。この「泡構造」がなぜできたのかも、宇宙空間に目には見えない大質量の暗黒物質が存在していると考えれば説明がつく(一様に分布してないのは、暗黒物質の重力に銀河が引き寄せられてるから)わけで、そっちからも修正ニュートン力学は却下されそうだし、なにより、宇宙が今のような構造に進化していった理由も分かってきそうだというわけで、なかなかすごい話なのだ。

 もっとも、まだ問題は残ってんだけどね。なんたって、それじゃあ「暗黒物質ってどんなものなのか?」という、正体についての謎がまだ解明されてないのだよ、実は。なんせ、実測はできてないもんで(笑)。

次回は災害・事故の際の人間の行動について取り上げます。3月9日掲載予定)

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堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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