コラム
» 2007年05月01日 09時00分 UPDATE

金融・経済コラム:ベンチャー投資資金は不足? 余剰?

ベンチャーキャピタルの人から「魅力的な投資案件が少ない」という意見を聞きます。一方、世界的に見ると日本は主要各国中、ベンチャーキャピタルの投資額が最低レベル(GDP比)です。これはなにを意味しているのでしょうか。

[保田隆明,ITmedia]

 最近、ベンチャーキャピタルの人達と話していると、「魅力的な投資案件が少ない」と嘆きます。具体的には、案件は以前と変わらず存在するものの、投資をしたいベンチャーキャピタルの数が多く、魅力的な投資先をめぐってベンチャーキャピタル間で競合することが多く、それが投資案件が少ないという嘆きにつながっている模様。

 さて、一方で先日、経済産業省の主催するファンド実務者連絡会というものに出席してみると、日本ではまだベンチャー企業へのリスクマネーの供給が不足しているのではないかという問題意識が提示されました。この連絡会自体は金融商品取引法政令・内閣府令についての意見を実務者より吸い上げるということを目的としていますので、ベンチャーキャピタルの話題を取り上げることは主目的ではないのですが、せっかくファンドに関わる人達が集まっているので、関連する重要な話題は取り上げましょうということでした。

 日本総合研究所のデータによると、世界主要各国のベンチャーキャピタルによる投資額とGDPとを比較すると、最も高いアメリカ、カナダで0.4〜0.5%、スウェーデン、フィンランド、イギリス、オランダで0.2%程度、そしてその他主要国で0.1%程度ですが、我が日本では主要国中最も低い0.03%程度となっています。

 日本でもアメリカでも国のGDPと上場企業の時価総額合計を比較すると大体イコールの関係にあるので、やはり日本における未上場企業への投資金額の少なさは目立ちます。

 また、ベンチャー企業で働く従業員数で見ても同様であり、最も高いのはニュージーランドで15%、アメリカで12%、ヨーロッパ諸国で5%、そして日本はと言うとまた主要国中最低の2%でしかないのです。

 日本総合研究所の資料の中では、そのようなわが国の状態に対して、アメリカの取り組みが参考になると指摘しています。具体的には、外部研究開発予算を持つ連邦省庁に対して2.5%以上はベンチャー企業へ供与することを義務付けるSBIR(Small Business Innovation & Research)と呼ばれるベンチャー企業支援制度の存在を指摘しています。これは、アメリカ経済が日本、ドイツのキャッチアップによる産業空洞化の危機に直面し、新産業の創出が必要との認識により1983年に開始されたとのことです。

 なお、経産省の連絡会では、日本では年金資金がベンチャーキャピタルに流れていないこと、ベンチャーキャピタルのIRR(投資年率リターン)が低いことなども問題意識として挙げられました。年率リターンが低ければ当然ベンチャーキャピタルに運用を任せたいと思う人は少なくなり、上述のような対GDPでの低い比率ということになるのでしょう。

 では、日本での解決策はアメリカと同様、政府による後押し政策と、ベンチャーキャピタルによる投資成績の向上の2つになりそうだということになります。しかし、後者に関してはリスクマネーの供給が十分でないので、思うようなリターンが上げられないという事情もあるのではないかと思います。

 例えば、アメリカのベンチャー企業での資金調達事例を見ていると、設立間もない段階でも10億円以上の規模でベンチャーキャピタルから資金調達をするケースも見られます。これは日本ではまずありえないことだと思います。それは、設立当初の企業を評価する術を日本のベンチャーキャピタルが持ち合わせていないということもあるでしょうが、単純にベンチャーキャピタルに流れている資金が全体として少ないため、そういう冒険的投資をする余裕がなく、自ずと1件当たりの投資金額が小さくなるということもあります。

 そうなると、起業する側もいくら魅力的な事業プランを思いついたとしても、大規模投資を必要とする場合は資金調達が不可能なので諦めざるを得ないことになり、出てくるベンチャー企業は小粒なものばかりとなってしまいます。冒頭のベンチャーキャピタルで働く人の「魅力的な案件が少ない」との嘆きは、「魅力的、かつ、適度に小規模投資で済む投資案件が少ない」と読み替えるべきなのかもしれません。

 小粒ばかりではベンチャーが経済全体に与える影響も小さくなり、ベンチャー企業が果たしている役割は対して大きくないんだから、あまり政府による支援やらベンチャーキャピタルへのリスクマネーの供給やらは必要ないだろうという意見が増えてしまいます。

 結局のところは、ニワトリと卵の議論でしかないでしょう。ただ、ライブドア事件以降、新興市場上場企業による粉飾決算や決算下方修正など、ベンチャーの旗色がとかく悪いわが国ですが、BRICSなど海外の発展途上国の経済的躍進が目覚しい現在、日本の置かれている状態はアメリカがSBIRを導入した25年前の状態に似ているのではないかと思い、このままベンチャーが低迷するような環境が続くと中長期的な日本の経済力という観点ではよろしくないことだけは間違いないと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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