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コラム
» 2007年04月02日 12時45分 公開

金融・経済コラム:「FON」――伊藤忠、エキサイトからの出資受け入れは吉と出るか

登録ユーザー間で自宅の無線LANを相互開放するプロジェクト「FON」を展開するフォン・ジャパンに対し、伊藤忠が出資したと発表しました。ベンチャー企業が商社というエスタブリッシュ企業の出資を受け入れたかたちですが、今後の展開はなかなか面白そうです。

[保田隆明,ITmedia]

 スペインを発祥とし、無線LAN共有サービスを展開する企業FONに対して、伊藤忠商事およびエキサイトが出資をしたと先週発表がありました。詳細は記事にてご確認いただければと思いますが、個人の無線LANを相互開放することで全国、世界中のどこにいてもインターネットへの接続が可能となる状況を目指す企業であり、日本には昨年12月に上陸しています。もともとは昨年の夏前の上陸が予定されていたものの、日本では権利関係など整理すべき事項がいくつかあって上陸が遅れたとも聞いています。

 実際、サービス開始後も日本の一部のプロバイダでは、FONの利用の禁止をする企業も存在します。それはFONの利用者が開放する無線LANを通じてプロバイダの直接の契約者でない人がインターネット接続の機会を得るのはタダ乗りではないかという議論です。ゆえに、FON側もユーザーに対して、自身で、契約しているISPとの規約に第三者開放を許可しているかどうかをチェックしてくださいと促し、許可していないのに開放しているユーザーに対しては、注意をするようにしているそうです。

 そうは言っても、著作権違反の動画がドンドンとアップされて人気を博したYouTubeの例を見るまでもなく、タダ乗り議論やプロバイダ側がFONは利用禁止です、と言っているそばからもドンドンとサービスが拡大していくことが予想されます。実際、日本でサービスを開始した昨年12月からの4カ月間でアクセスポイントは1万弱になったとのこと。

 今回FONに出資をしたエキサイトは、当初からほかのプロバイダとは一線を画しFONを受け入れていましたが、今回の出資によって「はは〜ん、そういうことだったのね」と合点がいった感じがします。しかも、親会社である伊藤忠も出資しており、プレスリリースでは「伊藤忠グループは、日本を中心にFONを認知・普及させるため、共同で事業を開始・強化していきます」としか書いていませんが、商社パワーであらゆる方面にFON普及のための働きかけをすることになるのだと思います。

 商社が自社のグループ企業の事業展開のためにどこかの企業に出資することは伊藤忠のみならず、日本の商社でよくみられる形態です。今回は本体と子会社であるエキサイトの両方から出資を行っています。商社パワーでエスタブリッシュ層を動かし、グループ企業がその恩恵にあずかるという、日本の商社が従来から採用してきた投資形態です。

 FONに関しては、日本ではどこまで伸びるのだろうと以前より個人的に注目していたサービスですが、この商社グループによる旧来型の出資を受け入れたことに対しては、意外な印象を受けました。もともとFONにはベンチャーキャピタル以外にもGoogleやSkypeが出資しており、GoogleやSkypeのアイデンティティー的なものと商社アイデンティティーは相容れないような気がしたからです。もちろんFONはFONであり、GoogleやSkypeとは異なったサービスの拡大手法、事業展開を行っていくと思いますが、ユーザー数で見ても日本はFONにとって有数の市場となっており、まだ今の時点では特定のプロバイダ、商社から出資を受けなくてもよかったのではと思ったりしたのです。未だFONの利用に反対しているプロバイダも存在することですし。

 ただ、タダ乗り議論やセキュリティ問題など、確かに対応すべき問題がいっぱいのベンチャー企業が独力で対応するには若干心もとない面もあり、そのあたりは商社パワーの威力が遺憾なく発揮されるのかもしれません。そしてプロバイダだけではなく、無線LANの接続サービスを有料で提供している事業者も多く存在し、彼らからも大々的に反対運動を起こされる前にFONが商社グループから出資を受け入れて市民権を獲得したのは与えたことは意味あることだと思います。

 そして、出資したのがエキサイトというのが面白いと思います。最大手でもなく、かといって、取るに足らない事業者でもなく、ほどよい規模感があり、ほかのプロバイダに対する影響度という意味では無視できないでしょう。

 さて、今回の動きを受けて、ほかのプロバイダはどういう行動に出るのでしょうか?エキサイトを追随して、自らもFONに出資するのか、あるいは、かたくなにFONの利用に反対するのか。また出ますかね? ソフトバンクの予想外割引、ゼロ円攻撃。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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