ユーザー同士で無線LANアクセスポイント(AP)を共有するグローバルプロジェクト「FON」を展開する英FON WIRELESSは3月29日、伊藤忠商事とエキサイトから出資を受けたと発表した。日本法人のフォン・ジャパンとこの2社で連携し、FONネットワーク拡大に向けて国内で事業展開する。
FONはスペインで始まった無線LAN共有プロジェクト。ユーザーは専用のルータ「La Fonera」を利用し、自宅の無線LANアクセスポイント(AP)を開放すると、他のユーザーが開放したアクセスポイントも無料で利用できるという仕組み。機器の販売と、海外で始めている有料サービスが収益源だ。国内ではフォン・ジャパンがデジタルガレージと協力して事業展開している。
国内ユーザーは昨年12月から本格的に募集し、すでに1万8000人が登録したという。国内AP数は都内を中心に約9500カ所。国内最大の公衆無線LANネットワークになったとしている。
FON WIRELESSは、総額1000万ユーロの第三者割当増資を3月に実施。以前から出資している米Google、米Sequoia Capital、スイスIndex Venturesが出資額を積み増したほか、日本企業として初めて、エキサイト、伊藤忠、DGインキュベーション(デジタルガレージのベンチャーキャピタル)が出資した。各社の出資割合は非公開。
FON WIRELESS創業者のマーティン・バルサフスキーCEOは「昨年12月に日本に本格参入したが、たった4カ月で日本のユーザー数は世界20位から3位にジャンプアップした」と日本を重視する背景を語る。
「日本人が好むゲームや音楽、動画、写真共有などのコンテンツは無線LANと相性がいい。カバー率だけを見ると、携帯の3Gネットワークの方がFONよりも広いが、日本では、ニンテンドーDSやPSP、ソニーのmyloなど、無線LAN通信のみに対応した機器も出ている」(バルサフスキーCEO)
エキサイトは、昨年12月に国内ISPとして初めてフォン・ジャパンと提携し、共同でプロモーション展開してきた。今後は、エキサイトのID・パスワードでFONのビジョンにアクセスできるようにするほか、FONユーザー向けコミュニティーサイトの構築、FONを活用したFMC(Fixed Mobile Convergence:固定と携帯の融合)サービスなどを行う予定だ。
伊藤忠は「APの共有で世界に無線LANを張り巡らせ、社会に貢献したい」というFONのビジョンと将来性を見て出資を決めたという。同社の瓜生裕明ITプロダクトビジネス課プロジェクトマネージャーは「FONは成功する条件を備えた企業だが、日本での展開にはさまざまなハードルがあるだろう」とし、FON対応機器の拡販や、ISPや無線LAN対応ゲーム機メーカーとのパートナーシップ構築などで協力していきたいと語った。
フォン・ジャパンはすでに、エキサイトのほかisao.netなどISPとの提携を発表している。国内の他有力ISPとも交渉を進めており、好感触を得ているという。
バルサフスキーCEOはFONと組むメリットを「世界で利用できる公衆無線LANを設備投資なしでメニューに加えることができる上、『ブロードバンドを契約したが、あまり家にいない』と契約解除してしまうユーザーを引き留めることもできる」と説明する。携帯キャリアとの提携も、世界で進めていく計画だ。
欧米では、有力ISPとの提携が進んでいるほか、スペインの観光地・マラガでは地方自治体とも連携しているという。「地方自治体が地域に無線LANを張り巡らそうとすると、現地のISPから営業妨害だと反対されるが、FONなら現地のISPと共存できるので、妥協案として利用してもらえる」(バルサフスキーCEO)。HSDPAを無線LANに変換して出力する機器を欧州で発売するなど、対応機器の拡大も進めている。
国内ユーザーは現在のところ、自宅のAPを無料開放する代わりに他人のAPも無料で利用できる「Linus」だけ。今夏ごろには、APは開放せず、他ユーザーのAPを有料で利用する「Aliens」の募集を始める予定だ。自宅のAPを有料開放し、他人のAPも有料で利用する「Bills」の募集のめどは立っていない。2007年末までに国内7万5000APの設置を目指している。
本格展開を始めているドイツやフランス、スペインなどでも、公衆無線LAN事業者の中で1、2を争うAP数を保有しているという。世界のユーザー数は現在34万人で、APは13万カ所。2010年までに、世界100万AP設置を目指す。
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